■Cradle

　ご存じですか、通りすがりの紳士さん。
　明日世界は救われるのです。戦争が無くなり、すべての人が幸福になれるのです。
　あなたの息子さんだってきっと帰ってきますよ。
　だからそう気落ちなさらず。
　早く終わるといいですね、この戦乱も。

　ご存じですか、通りすがりのパン屋さん。
　あちらの林に財宝が隠されているそうです。この小汚い花売りの手を取り、探しに行っ
てはもらえませんか。
　ああ、見付かりませんね。もう随分と探し回ったのに。
　ところで少し聞いてもらってもいいですか。
　小娘のつまらない戯れ言です。
　私、前々からあなたとお話ししたかったんです。明日もあの時計台の下で、あなたをお
待ちしてもいいですか？　とっても素敵なパン屋さん。

　ご存じですか、お母様。
　さっき未来が見えたのです。私は素敵な方と一緒になって、幸せな家庭を築けるらしい
のです。
　だから心配しなくてもいいですよ。私は、こんな病気になんて負けません。何を言って
るんですか。私は決して、決していなくなったりしませんよ。

　ご存じですか、お父様。
　僕は今日だけ大人なのです。だから一緒に酒を飲み交わしましょう。
　明日はお父様の旅立ちの日ですね。
　家のことはご心配なく。
　僕は１人でも、大丈夫ですから。絶対に泣いたりしませんから。


　……こうやって、体現者たる私めは人々の嘘を受け取り続けてきたのです。
　歴史の隙間に隠れ住み。
　もう何十年、何百年と続けていますが、飽きることなどございません。嘘と真実は紙一
重、愛しき祈りをこの胸に仕舞って。
　さて、そろそろ終演のお時間となりました。
　それではまた来年にお会いしましょう。

　願わくば、善き嘘を。
　誰かを幸福にしたいと願う声こそ、貴方の真実たらんことを。

-unknown-

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