滅殺ブラッドジェノサイダーZERO
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■伝説の料理店
そして素敵ユーレイは絶叫した。
ちゅどーんと背中に爆炎を纏って。
「食は最大の娯楽なのです! あんな寂れ商店街ぶらぶらしてハイ終わりもうやめような
んて不健全です! いっそさっきの駅で電車を捕まえ、隣街まで行くくらいはやってしか
るべきなのでしょう!」
「死人が食い意地張ってんじゃねぇ! いいかげん諦めろよ!」
「やですやだやだいーやーでーすー! ぜったい見付けるんですー!」
揉めていた。
「まったく……なんて乙女心の分からない人」
「そうだ、何かが違うと思ってた。それってお前が単に逆ダイエットなだけだろ」
「失礼極まりない不良さんです。もう知りません。幽々子さんと一緒に魔王召還の儀式で
もやってればよかったんじゃないですか?」
ぷんぷんと、真っ暗な場所を歩く。
縁条商店街西通り。
店などあってないような廃墟だ。明かりなど、100m先の裏飯屋くらいしか灯ってい
ない。
「「…………え?」」
2人揃って声を上げた。
嘘じゃない。幻でもない。目をこする。それでもしっかりくっきりと、『裏飯屋』と書
かれたのれんが見えている。
「あぁ——あああああああっ!」
指を組んで目を見開き、希望に震える素敵ユーレイと。
「ま……じ、かよ……オイ……!?」
信じられないという顔で、ばしばしと、そのユーレイの肩を叩く少年。
彼らより先に、のれんをくぐって入っていったカップルと小学生3人組などは知らない。
そんなエキストラは目に入らない。
「まさ……か……? え、夢じゃないですよね、不良さん……」
「ああ、すごいよお前! 本当に見付かるなんて夢にも思ってなかった! オレたちはや
ったんだ、とうとうやったんだよ馬鹿ユーレイ! いくぞッ!」
「はいっ!!」
2人は元気に駆け出した。
燦然と輝くのれんを目指して。
「なぁ莫迦ユーレイ! あの店は一体、どんな料理を出してくれるんだ!? 美味いんだ
な!? 脳が溶けちまうほど美味いんだよな!?」
「もちろんです! 古今東西どこにも属さない、未知なるエデンの味なのです! しかも
格安! お財布にもはっぴーな裏料理! もはや昇天必至の無敵味、満腹デリシャスデ
ザート完備! 人はあれを、あれこそを裏飯屋さんと呼ぶのですーッ!!」
幸福絶頂の叫びを上げる。
「「ひゃっほーう!!」」
だが実はその頭上、約500メートル上空に。
「ぢゅわぢぶあるあああああああああ!! 俺の3分タイマーが!! 浦島現象やと言い
張って3分以上に伸ばしまくるのはさすがに無理があったんかあああああ!!!??」
いまこの瞬間に、裏飯屋を破壊するべく、撃ち落とされたビッグ関西人の巨影が迫っ
ていたことには誰も気付けない。
2人は揚々とのれんをくぐる。
「いらっしゃいませー!」
「「いらっしゃいましたー!」」
揃って叫び、ひたすら仲睦まじく肩を小突き合う。
巨人は迫る。
接触まで残り30秒。
異変だらけの縁条市にて。
「ぢゅわぢぶるぁああああああああああああああ!!? カラスの群れを足場にして助か
るような恩返し展開もないと言うのかあああああああああ!!!? 猫! 猫助けとくん
やったああああああああああッッ!!!!」
本日のメインイベント『ヒカリと巨像』の大決戦が、間もなく開演しようとしているの
だった。
ところで。
「ああ店長さん、おかわりお願いね。請求書は網名市在住のこの私、柊ゆかりちゃん宛て
でいいから。にしてもやたらめったら美味しいわねー、隠し味何使ってんの? ん? 魔
法? まったまた〜、ほんと好きねそういうの」
ご機嫌で店長を小突く不幸の原因。
あるいは平和な縁条市。
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