滅殺ブラッドジェノサイダーZERO

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■バックトゥザフューチャー

「ちょっと、ここで待っててね。様子を見てくるよ」
 ある神社の石畳に着くと、アユミちゃんはそう言った。
「気を付けてね。何かあったらすぐ呼んで」
「うん」
 少女の背中が石畳を上がっていく。
 さっきの説明によると、アユミちゃんたちの本拠であるらしい。僕は顔を出すべきじゃ
ないという判断で、ここで待機することになったわけだが。
「はー、しっかし……」
 寒い。眠い。帰ってベッドで休みたい。
 のっそり石畳に腰を下ろす。
 立て肘ついて顔を上げると小動物がいた。黒い毛並み。やたらめったら鋭い赤目が、僕
を見上げて声を発した。
「久しいな」
「なにこのウッザイ喋る猫。カラスに食われればいいのに」
 この滅茶苦茶な街で、いまさら猫が喋ったくらいで驚くはずもない。こいつもきっと、
誰かの嘘で喋れるようになっただけだろう。
 黒猫は偉そうな口調で語る。
「……先に確認しておきたい」
「だから、何」
「お前はオレ様と出会ったことがあるか?」
「ねぇよ。あるわけないじゃん、喋る猫なんて」
「なるほど。分かりやすくて非常に結構」
 勝手に石畳に飛び乗って、そいつは僕の隣で顔をこすりながら言ってくる。
「お前、怪奇現象にはどのくらい出会った」
「ユーレイしか知らないよ。あと呪いの文房具くらい」
「タイムスリップと夢オチ、どっちが現実的だと思う」
「夢オチ。前者だけはどう考えても有り得ないでしょ」
「そうかい。正解は前者だ、嘘だけどな」
 にひひとイヤな笑みを零す。そうかこいつも悪党か。
 黒猫は小動物特有の俊敏さで飛び降り、僕に背を向けたまま言ってきた。
「特別にアドバイスをくれてやる。この街に呼び出された時は、迷わず長い坂道を探し出
せ。大体はそれで終わるようになってる」
 意味深な口振り。それはどうでもいいけど。
「……坂道?」
「ああ。んじゃあばよ、せいぜい踊らされてやれ」
 そのまま黒猫は、夜の街へと走り去っていった。どーにも好きになれない猫科。
「シンジ君……大変だよ」
「え、うわ。どしたのアユミちゃん、そんな幽々子さんみたいな顔して」
 背後を見ると、ずーんと暗くなったアユミちゃんがいた。
 アユミちゃんは暗い顔のままで語る。
「……サッカーしてた」
「誰が?」
「神社在住の双子っ子」
「スポーツか。健康的な嘘だね」
 それにしてはヤケに暗い。
「でもね。ボールが苦悶を浮かべた人間の」
「ストップ」
「もぎゅ」
 口を塞ぐ。なんとなく聞いてはいけない気がする。
 石畳の頂上からは楽しげにはしゃぐ声が聞こえる。きゃはははは。そこなのです藍、
ゴーカイにしゅーとで爆砕なのですー。
「…………」
 きゃはははは。気のせいだろうか。あこだけ空が赤黒い?




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