滅殺ブラッドジェノサイダーZERO
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■エイリアンVSプレデター
閉店だらけの商店街に出た。
アユミちゃんによると『皐月通り』という名前だそうだ。しっかし。
「……錆びれてるねぇ」
「うん。でも、これがこの街の象徴というか何というか……」
僕たちは並んで商店街を抜けていく。
静かな空間に響く足音。遠く、ウルトラ大決戦が見えている。
「………なんか、あれだね」
「ん?」
「こうやってると、観光客さんにわたしの街を案内してるみたい」
アユミちゃんは穏やかに笑った。
僕も静かに頷いておく。
「ちょっと不思議時空な街だけど」
「普段はこんなんじゃないからね!? ちゃんと平和な街だからね!?」
ちゅどーんとアユミちゃんが噴火した。
その背景。
誰かが、ターミネーター走りで駆け抜けていった。
「「————」」
がしょんがしょんがしょんがしょん。
あー来た。
また不思議来ちゃったよオイ。
巫女服のターミネーチャンは僕らを追い越して10m、疾走ポーズのままピタリと一時
停止した。
「…………」
夜の商店街の真ん中で。
誰かの背中が静止している。
「雪音さん……?」
アユミちゃんが恐る恐る声を投げた。
「知り合い?」
「うん、わたしと同じこの街を守る人。いまは引退してるけど、1番えらい人なんだよ」
「ほほぅ」
これはもしかするとラッキーかも知れない。
えらい人なら頼れるだろう。この異変の正体だって掴んでるかも。
「あの、巫女さん! 僕たちこの街をこんなにした犯人探してるんですけど、お姉さんも
同じですか!?」
「…………」
ネーチャン答えない。他人な僕が警戒されてるのだろうか。
巫女さんがぎしぎしぎしとおかしな音を立て、ゆっくり僕らを振り返る。
「「ひ——いっ!?」」
首だけで。
180度近く振り返り、血走った目で僕らをまっすぐ見返してくる。
『キルキルキルキルキルキルキル』
口が機械的に音を発した。
と思ったら消失。
夜空から、月をまたいで巫女さんが降ってくる。
「うわああっ!?」
「つ——!」
寸前で散開。アスファルトに、巫女さんの右拳が突き立ってクレーターを作った。
『キルキルキルキルキルキルキル』
「違う、雪音さんじゃない! メタル雪音さんだ!」
「なにさそれ……っ!」
ぎーし、ぎーしと音を立て、四肢を怪人チックに蠢かせる姿がボスモンスター。
アユミちゃんは巫女さんの向こうで叫んだ。
「昨日、雪音さんはわたしの先生と口喧嘩してたんだよ! いつものことだけど!」
「犬猿コンビだね。どこにでもいるもんだ」
「その時わたしの先生、雪音さんに言ったんだよ! 『黙れこの鋼鉄女。お前なんざ金属
製のメタル雪音になってしまえーい』って!」
「どんな罵倒語……」
確かに、よく見ると巫女さんの肌は金属質だった。
僕はカッターナイフを右手に握る。
「とりあえず、金属製なら多少叩いても壊れないよね」
『キルキルキルキルキルキルキル』
両足の裏にローラーでも付いてるのか。
駆動音を立てて巫女さんが迫る。異様な速さ。振り下ろされる鉄の手刀をカッターナイ
フで受け止める。
「ぐ……ぅ!?」
ギリギリギリと押し潰されそうになる。ものっっすごい馬力だった。
鍔迫り合いの最中、アユミちゃんは何故か、あさっての方向を向いて希望の叫びを上げ
る。
「先生っ!?」
『!』
瞬間、巫女さんが跳躍。僕の眼前に振り下ろされた凶器を回避して、10m先の地面に
またクレーターを作って着地した。
『キルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキル』
巫女さんの声が2倍速になる。たぶん怨敵なのだろう。僕はただ、目の前に現れたその
女子高生に目を奪われていた。
「……まったく、まさか本当に金属製になるとはな。おい雪音、そこら辺にしておけよ見
苦しい」
『キルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキル』
「フン、聞く耳持たずか。総括がそれじゃ部下のオレたちが困るんだがね——」
さらりと掻き上げられる肩までの黒髪。
切れ長の雨夜のような双眸。
黒セーラー服のその人は、嘘みたいに綺麗だった。先生さんはチラリとアユミちゃんに
目を向ける。
「ケガはないなアユミ。一般市民の少年も」
「は、はい! 先生の方こそ!」
「初めてになるが、見ておけアユミ。これが、オレの、魔法少女姿だ」
「はいっ! …………え?」
目を点にしたアユミちゃんの目の前で、先生さんは胸ポケットから何かを取り出した。
掲げ、ウィンクし、やたら眩しい光を纏って。
はじまた。
「まじ狩るトカレフやまんばば(※中略※)法のスイーツ美少女♪ 参☆上っ!」
たしかに惨状だった。
ぷりちーな掛け声。誰が叫んだのかは伏せておく。
これから服が裂けて変身するのだろう。もうその辺りで、僕は察してしまっていた。や
られてる。この人も異変にやられてる。
眩しい光に謎粒子、ハートマークと光の帯と。
「…………」
乾いた諦念が胸に沈んだ。静かに。ただ水面より静かに受け入れる。
不思議と穏やかな気分だった。いまなら田舎に帰って畑を耕すのもいい。清々しい空気
がやけに恋しい。
ここから先は目を伏せることにした。
見ないであげた方がいい。先生さんの尊厳のために。耳を撫でる軽快なBGM。右手に
持っていたステッキから流れてるらしい。大丈夫。よくあることだ。
「…………」
今日は風が涼しい夜だ。
僕は穏やかな足取りで、変身シーンの周囲を歩いて反対側へ。
尻餅をついたまま、本気泣きしているアユミちゃんがいた。胸が痛む。僕は傍に膝をつ
き、優しく肩を支えてあげることにする。
「ふぇぇええ……ひっく……やだよ、先生が……わたしのクールな先生がぁ……っ!」
「しっかり。大丈夫、僕がついてるよ。つらい現実を直視する必要なんてない。忘れよう。
目を閉じて見なかったことにしようね——」
そろそろ変身が完了したらしい。開幕早々弾幕張って、メタル巫女さんと白熱していた。
アユミちゃんは項垂れたまま、ぽつりぽつりと譫言のように語り始める。
「……昨日、先生と雪音さんが口喧嘩してたんだよ。いつものことだけど」
「ああメタル巫女さんと」
「そう、それで雪音さんは『メタル雪音になれ』って言われたとき、先生に言い返したん
だよ……『うるさいクソ魔女。あんたなんか、ふりっっふりの魔砲少女になってしまえー
い』って」
「そうだね。その1字違いは、少し不味いね」
「すたぁぁああらいとぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「キルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキルキル」
激戦の音色が皐月通りを揺るがす。
ここから先は空中戦らしい。2人が地を蹴り、争いながら、どこか遠くへ逸れていく。
「もうやだよ……いつもの縁条市に戻ってよ、みんな……ぐす……ふぇえええ」
少女の心を、置き去りにして。
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