滅殺ブラッドジェノサイダーZERO

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■吉岡雛子の憂鬱病

「雛子です……ひとの頭で野球するのが生き甲斐、というグロ設定ですが、いまんとこ打
率ゼロ割です」
「優奈です……ひとの不幸が大好きです……みんな不幸になればいいのに」
「……香澄」
 よろよろと決めポーズらしきものを取って、先頭の金髪少女が宣言した。
「あたしたち3人合わせて、悪の秘密結社、バレットガールズでーすぅ……」
 ちゃこーん。
 どーにも気合いの抜けた名乗りだった。
 ふらふらと星を纏ってバッドトリップしているその子たちに、僕は投げかける。
「えーと……よく分かんないけど君たち、なんでそんなド暗いの?」
「あたし、アレなの。生きてる価値もない人間なの。きっと消えてしまった方がいいんだ
よ」
「そうだ雛子ちゃん……みんなを困らせて不幸にしようよ……くすくす」
 白い女の子が金髪バッターにしなだれかかる。耳元で妖艶な囁き。それを見てアユミち
ゃんがたじろぐ。
「そんな……雛子ちゃんたちまでこんな……」
「知り合い?」
「うん、普段はあんな子たちじゃないんだよ。なのに……」
 一体どうして、という詰問に、1番仄暗い女の子が答えた。
「……ネガティブ思想、現実化してる」
「え?」
「……人間はみんな鬱。心の奥にネガティブを飼ってる。それを表に引き出されてる」
 なるほど分かりやすい。
 しかし、2人と違って随分しっかりした声だった。
「優奈ちゃん、大丈夫だよ……優奈ちゃんを傷つけるやつはみーんなあたしがぶっこぉす
よ……」
「くす、くすくす……その調子だよ雛子ちゃん……きっと2人で地獄まで堕ちようね……」
 百合百合イチャイチャしてる女の子たちにゲンナリしながら、僕は仄暗い子に声を投げ
る。
「君は平気なの?」
「……慣れてるから」
「にゃるほど」
 耐性が付いてるのか。
 それでアナフィラキシーショックしないってのはなかなか強い。
「うー、うー、かっきーん。うー、うー、かっきーん」
「む?」
 ふと、金属バットの子がぶんぶんと素振りし始めた。シャドウベースボール? ぎらん。
「そこだあああああああああっ!!!」
「うぉわ!?」
 風切り音。
 いきなり僕に突進してきて、おもいきりバットを振るった。間一髪。ゴミ箱が吹き飛ぶ。
 金髪少女はヤンデレからデレを除いたヤバイエミを僕に向ける。
「死んじゃえ……みんなみんな死んじゃえばいいんだ……ふふ、うふふふふ……」
「やっちゃえ雛子ちゃん……みんなを不幸にしてあげて……くす、くすくす」
「……あ……眩暈が」
 みんな目が死んでる。1人やっぱりアナフィラキシーしてる。
「げ……」
 ぬらりゆらりと行進してくる。
 じりじりと後ずさる。アユミちゃんが叫んだ。
「ど、どうしよう!?」
「や、決まってるでしょ」
 ギチギチギチ。
 僕はカッターナイフの刃を伸ばし、ぶんと振るった。
「いくよ、アユミちゃん」
「!? 待って! あの子たちを傷つけるのは——」
 僕は夜空を舞っていた。電線に着地。見上げてくるアユミちゃんに返す。
「分かってるって。子供相手に刃物振り回したりしないよ」
「え?」
 僕の全身には既に、カッターナイフの呪いが憑依していた。
 走る。
 狙うは電柱電線街灯。
「切断、切断、切断切断切断切断っ!!」
 現代日本は蜘蛛の巣だ。どこへ逃げても頭上に何かある。それを片っ端から切り刻んで、
無機物の雨を周囲に降らせる。
 大量の隕石群が、地面を穿って土煙を上げる。
「うきゃああああああ!? 伏せて優奈ちゃんっ、優奈ちゃんはあたしが守る!」
「お、終わる!? 私たちはここで終わるの!?」
 大混乱の公園出口。
 その中で僕は着地し、アユミちゃんに叫んだ。
「いまだ! 逃げるよアユミちゃん!」
「うわ、すごい冷静……もしかして手慣れてる?」
 心外です。
「そこのキミ!」
「……?」
 去り際に、仄暗い子にエールを投げた。
「しっかり! 2人のことは任せたよ! ちゃんと原因は解決してくるから!」
 ぱっと正気を取り戻す双眸。
「いたっ」
「あづっ」
 ぱこぺこと2人の頭を叩く。
 がっしと纏めて捕まえて、仄暗い子は無表情で言った。
「……任された」
 親指を向けて、公園をあとにする。
 住宅地を駆け抜ける最中、アユミちゃんが言ってきた。
「シンジ君って、あれだね。アンパンマンだね」
「えぇ? なにそれ」
 にっこり笑顔を向けられる。
「……平和主義ってこと」




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