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       暇潰しの夜 07/13 
      
       
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        「せんぱぁぁあああああああいいいいいいッ!!」 
         がったーん。灰崎が食卓を叩いた音だった。 
         僕はそれを横目に見やり、マイペースでトーストを囓る。もぐもぐ、ごっくん。コー 
        ヒーずずず。はぁ。 
        「なに灰崎、いきなりそんな大声出して」 
        「どうもこうもないですよ、何なんですかこれは! 女の子の寝込み突いて何してくれて 
        るんですか一体!?」 
         灰崎は自分の頭を指差して叫んでくる。 
         髪が素敵なことになっていた。鎖で。こう、エライ感じに。 
        「わぉ可愛いね灰崎。なにそれ最新流行?」 
        「流行りませんよこんな無敵ヘアー! 小学生ですかあなた、顔にマジックで落書きして 
        喜んでるのと同レベルです! 正直見損ないました、最低ッ!」 
        「ん?」 
         なにか微細な引っ掛かりを覚えた。 
         ふとメリィちゃんに目を向ける。音速で顔を逸らされた。ははーん。なるほど? 
        「……人聞きの悪いこと言うなぁ。まるでふとリビングを通りがかったら灰崎がお腹出し 
        て寝てて、あんまりにも気持ちよさそうだったモンだからついつい僕が出来心でやっちゃ 
        った、みたいな根も葉もない事実じゃないかそれ」 
        「まじで1回シメましょうか!? 気道完全に絞め切って脳からじわじわヤッちゃいまし 
        ょうか!?」 
        「ちなみに寝言は『や……メリィちゃん……だ、だめぇっ!』以下略」 
        「うわああああん! 先輩が勝手に100%勘違い横行しそうなこと捏造してるぅううう 
        ううう!?」 
         頭抱えて絶望する灰崎ヒカリ、そんな日曜朝10時。 
        「うぅ……ぐすっ……もうお黄泉に逝けないです」 
         くるりと視線を向けると、茶ブレザーの背中がテレビに釘付けになっていた。 
        「あれ、どしたのメリィちゃん。なんか気になるニュースでもあった? ちなみに星占い 
        はさっき終わったよ」 
         僕は頬杖をつきながら尋ねた。ああ、やっぱ僕もまだ眠いな。でもいま寝たら九分九厘 
        仕返しされるしなぁ。 
        「……死……ん、だ……?」 
        「「 え? 」」 
         よく見ると。 
         メリィちゃんの背中は、かたかたと小刻みに震えていた。 
        「……メリィちゃん?」 
        「どうかしたんですか?」 
         素早く異変に気付いた灰崎が、駆け寄って肩を支えた。既に髪型が戻っている。 
         僕はテレビの音に耳を澄ます。 
        「…………」 
         それは、連続殺人の報道だった。 
         バラバラ死体。手口は同一。被害者たちの関連性は、女学生であったこと、ただそれだ 
        け。 
         確かに怖ろしいニュースだけれど、よくある話だろう。でもメリィちゃんにとっては違 
        ったらしい。 
        「青木晴海さん、坂井美里さん……一之瀬加奈さん……うそ、なんで……なんで……!?」 
        「!?」 
         頭を抱え、怯えるようにうずくまる。 
         寒がっているような震えはもう痙攣じみて強くなっていた。ああ、過呼吸してる。 
        「──」 
         僕は即座にテレビの電源を切った。 
         立ち上がり、メリィちゃんの目の前まで歩いて会話する。 
        「……落ち着いて。大丈夫、安心していいよ。だからゆっくり話してみて」 
        「メリィちゃん、何があったんですか? さっきの事件、まさか」 
        「う……う、ん……知ってる、知ってるんだよ、みんな知ってる! なのになんで……み 
        んな、」 
         ガチガチと噛み合わない口が、懸命に声を発する。 
        「……ちょっと怖がらせただけ、なのに……っ!」 
         僕は灰崎と視線で頷き合う。 
        「……ひとつ、質問するよ。YESかNOだけでいい。答えてくれる?」 
         メリィちゃんが、震えながらもこくこくと頷く。 
         これ以上パニックを起こさせないよう、僕はゆっくりと尋ねた。 
        「さっきの事件の被害者たちは、キミが脅かした人たちだった。そういうこと?」 
         僕の質問に、都市伝説メリィは悲痛な瞳で頷いた。 
         
         
         
        
      
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