斬-the black side blood union-

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「夜になったら出るぞ。行き先は青柳高校経由でたぶんあの世だ。総員、遺書は早めに書
いておくように」
「「「…………」」」
 ようやく家に辿り着いた途端、先生はそんな悲しいお知らせをした。
 We will die.
 玄関に、重々しい沈黙が充満する。
「えっと、あのねお姉さん」
「ん? なんだね死刑確定の亡霊少女」
 勇敢な吉岡雛子嬢は、何故か満足げに笑っている先生を見上げて、嘆息した。
「……笑えない。ちっとも笑えないから、色々」
「そうか? 不思議だな少女、オレは最高に楽しいぞ」
 はっはっはっはと1人勝手に笑ってリビングに去っていった。
 静かになった玄関で、雛子が声を潜めて言ってきた。
「……ねぇ。あの人っていつもあんなトゲトゲなの? 正直コワイ」
「いや、まだ刀抜いてないだけ穏やかだと思うぞ」
「はぁ? なんで家の中で刀抜くのさ、意味わかんないし」
「俺にもわからんが、どこでも抜くんだよあの人は」
「あ──」
 靴を脱ぎ終えた俺は、不意にふらついたアユミの肩を支える。
「さて、んじゃ包帯代えるぞアユミ。1人で階段上がれるか?」
「平気だよ。羽村くんこそ、いまのうちに休んどいた方がいいんじゃない?」
「はん。そんな血みどろで何言ってやがる」
 気を紛らわせるために、意地の張り合いなど嗜んでみる。
 双方本気じゃないのですぐ終了。
「雛子、てきとーにくつろいでてくれ。なるべく家から離れないようにな」
「2人はどうするの?」
「とりあえず2階。包帯巻いたり休んだり」
「んじゃあたしもついてくし。救急箱どこ? 先に上行ってて」
「おう。そこ入ってキッチン側の廊下だ、悪いな」
 小走りで駆けていく背中を見送って、俺たちはしばし無言になった。
「…………」
 小さな背中。
 何一つとして変わらない、けれど時折輪郭が霞んでしまう少女。
「……ねぇ羽村くん」
「うん?」
「やっぱり雛子ちゃんだね。少し悲しいけど、でも会えて嬉しいよ、わたし」
 アユミの横顔は『おねぇさん』のものだった。
「……そうだな」
 たとえ復讐を願った残照だとしても。
 人のカタチをした呪いでも。
 雛子が俺たちのことを覚えていなくても、それでも、こうしてまた会えたことを素直に
喜んでいいのかも知れない。
「また一緒に遊びたいね……」
「遊べるさ。これから先、きっといくらでも」
 関係が失われたのなら、もう一度繋ぎ直せばいい。もう一度友達になればいい。そうし
てまた、どつき合えるようになればいいんだ。
「そのためにも、いまはがんばらなくちゃな」
「うん……がんばる」
 相沢ユウヤ。
 全域知覚。
 宝生優奈。
 行方の分からない少女・香澄。
 そして、まだ正体の分からないネバーランド。
「………」
 静かに、顔を上げる。

 ──出立は夜だ。
 目的地は青柳高校。そこが、相沢との決戦の舞台となるだろう。




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