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斬-the black side blood union-
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そうして私は居場所をなくし、太陽のない世界を彷徨うことになる。
「……」
空は白い。
靴裏を叩くアスファルトの感触は硬くて、歩き続けることすら億劫になってくる。
立ち止まる、雑踏の中。
声を聞く。
折り重なって輪郭を打ち消し合った声は本来の意味を削ぎ落とされ、ただの雑音となっ
て耳を覆っている。
通り過ぎていくおおきな背中たち。
顔の見えない人間たちは何を考えているのか分からなくて、とてもあの背中たちと意志
の疎通をしようなんて気にはなれない。
波、波、雑踏の波。そんな中で。
「………………」
静かに、自分の両手を見下ろした。
「………あはは……」
透けている。
地面が透けて見えてしまっている。
半透明の全身。
名前は思い出せる。
吉岡雛子。
だけどそれ以外はほとんど何も思い出せなかった。
白い世界の真ん中で。
存在ごと忘れ去られ置き去りにされてしまった私はどうすればいいんだろう。
立ち尽くす。
ここには、私という存在を知るものはいない。それはつまり私がここにいないというこ
とだった。
「………あ……ぅあ」
見上げた空は真っ白で、太陽がなかった。
耳を覆う雑踏の音。
自分の体をすり抜けて歩いていく人々。
なんだろうこれ。
意味が分からない。
私は誰だろう。
雛子だ。吉岡雛子。だけどそれだけ。それ以外に何もない。
命さえ、体さえない。だから半透明。だから誰も私の存在に気付かない。見えない。ふ
れられない。
あるのはただ、大きすぎる喪失感だけ。
きっと人間としてとても大切な物を失くした。
だけど何を失くしたのか分からない。理解したくない。恐い。どうしてこんなにも1人
ぼっちなのだろう。
「ね……ねぇ、」
たどたどしく、目の前を横切るおじさんに声を掛けた。
おじさんは私には気付かず、声も聞けずに通り過ぎてゆく。
「誰か……ねぇ、誰か……聞いてよ。見てよ。あたしに気付いてよ……」
ふらふらと、声をかけ続けた。
だけど誰も聞いてくれない。
誰も存在にさえ気付いてくれない。
「あ……ああ」
街頭テレビは揃って連続女児誘拐殺人の報道を映し出していた。
だけど知っている。
あんなもの、まるで始めからなかったみたいにすぐ忘れ去られていくだけなんだ。まる
でいまの私のように。
私は頭を抱え、しゃがみ込んで、がたがたと震える。
たくさんの足が私をすり抜けていく。
死んだ?
本当に?
うそだ……うそだよ。
やだ、こんなのいやだ。
助けて。誰か助けて……助けて──!
「うあああああああああああああああッッ!!!!
ねぇ、無視しないでよ聞いてよあたしの話を聞いてよ、ねぇ、ねぇねぇねぇってば!!
ここにいるよ、ね、あたしは、あたしはここにいるんだよ!? やだよ、いやだ見てよ
あたしをちゃんと見てよ!! なんで見えないの!? やだ、やだやだやだやだやだ!!
死んじゃったなんていやだ! 忘れられるなんていやだ!! お母さん、お父さん!!
どこ……いや……やだよ……恐いよ淋しいよ助けてよぉ……うぐぁ……あああああああ
ああああっ!!!」
『よくある悲劇』の名目のもと。
有象無象に埋もれた私たちは、次第に輪郭を失っていく──。
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