生徒会長 13/14

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 がららと静かにドアを開ける。
 日影になった、昼の生徒会室。
「…………まったく。どういうつもりなんだか」
 そいつはまるで、箱入り娘のように窓枠に腰掛けていた。外の世界に焦がれているよう
な横顔。歩み寄っていく。
 優しい風が生徒会室を撫でている。
 ぱらぱらと穏やかに書類が揺れる。
 澄んだ空気に墨差すように、私は言葉を折り重ねていく。
「墓の下まで持って行くつもりだったの? ユーレイがいるなんていう嘘っぱち。私が望
んだからっていうただそれだけの理由で、このさき一生、嘘を抱えて生きようとしてたん
だ」
 足を止める。
 そいつは何も言わず、ただ黙って、私の声に耳を傾けていた。
 私は腰に手を当てて、疲れ切った溜息を吐く。
「3人で一緒に解決しましょうって言ったわね。えぇ、完全に騙されたわよ、この嘘つき」
「…………」
 さらさらと白カーテンが揺れている。
 風に流れる髪を撫でつけながら、そいつは懐かしむようにくすりと笑った。
「アオイはね。おばけの話をするとき、本当に素敵に笑うのよ。自分では気付いてなかっ
たでしょうけど。夢見る年頃純情乙女。大好きな、私のお気に入りの笑顔なの」
 幸福そうな笑みのまま、優しい声がかすかに沈んだ。
「だからね……叶えてあげたかった。アオイの夢を。この現実で」
 白い指が窓枠をなぞる。
 ひとつひとつを慈しむように。
「ねぇ、どうして気付いてしまったの? どうして推理なんて始めたの? アオイはずっ
と望んでたはずでしょう。なのに、どうして——」
 私は放り投げるように言ってやる。
「知らないの? ユーレイにはね、足がないのよ」
「え——」
 面食らった瞳が私を捉える。
 しばし私の力無い笑みを観察して、ユウカはようやく察してくれた。
「アオイ……」
 そう、オカルトは酸化するんだ。これは、この憧憬は胸の中でだけ生きられる幻想だか
ら。
 だから、本当は。
 私の願いは、誰にも叶えられないんだ——。
「…………そっか、アオイの好みは難しいのね。すごく頑張って考えたのに。悔しいな。
あともう少しで調理室の悪霊、きっと現実にできたのにな……」
 ユウカは静かに顔を上げる。
 見上げた空は遠かった。
 虚しい色だ。
 色あせた現実の色。子供の頃に描いた虹色が、少しずつ少しずつ溶かされて、そうして
出来たつまらない青。
「…………」
 手の届かない場所。
 置き去りにされた、この、小さなひだまりの箱庭で。
「怒ってる? アオイ」
「……あんまり。むしろ楽しかった」
 そしてホラーは殺される。
 無惨に綺麗に跡形もなく。
 ひとたび夜が明けた途端、彼らは眩しい朝陽に掻き消えて、笑顔で無へと還っていくん
だ。
 狭い眩しい日常を。
「…………ごめんなさい。よけいなこと、しちゃったね」
 今日も明日も、あさっても。




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