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亀と神父、レストランに行く

 夜。たまには豪勢なディナーを食べたいと思ったので僕は神父とレストランを訪れた。
 キタヤマ社の社内報に載っていた、おすすめレストラン……フミュー? だったかな? 何かアルファベットで読めなかったけどそんな感じの名前だったと思う。そう、僕は英語が苦手なのだ。大学での英語の成績だってそれは悲惨で……
「亀よ、着いたぞ」
「はっ」
 着いていた。レストランに。
 僕が案内する予定だったのに、いつの間にか神父の手には社内報。ああ……
「入らないのか?」
「入ります」
 見た感じ、よさそうな雰囲気のレストランだ。壁に無造作に打ち付けてある何枚もの板がセンスを醸し出している。
「お邪魔しまーす……」
 レストランに入ると、真ん中で西洋中世風の異世界から来たみたいな人が竪琴を弾きながら歌っていた。
「おお勇ましきアルデバラン、エールを一飲み~」
「いらっしゃいませ~何名様ですか?」
 店員さんにしては豪華なドレスを着た人が僕たちのところにやってきて、人数をきいた。
「あ、二名です」
「二名様ごあんなーい! どうぞ~」
 たぶん店員さんであろう人は、2階窓際のテーブルに僕たちを案内してくれた。
「おーすごい。街が見えますねえ……あれ?」
 窓から見える景色はどことなく、僕たちの住んでいる街とは違う景色のような気がした。だって僕たちの街には運河とかとても大きな教会なんてなかったし。
「神父、どう思います?」
「そうだな……さしずめ、異世界レストランといったところか」
「異世界レストラン?」
「その名の通り、色々な世界から来た客が集まるレストランだ。世界同士が重なりあう狭間に建っていると言われている」
「へえ……やっぱり神父は物知りですねえ」
「社内報に書いてあったぞ。読んでいなかったのかね?」
「えっいや、おいしいレストランってことだけに目が行って詳細は気にならなかったとかそういう」
「なるほど」
「すみません……」
「まあ、気にしないことだ。意識は変えられないが、補える。君が見えぬものは私が見ておけばいいだけだからな」
「神父……!」
 僕は胸の前で両手を組んで合わせた。
「祈るなら神に祈りたまえ。もっとも、君に神がいるのかどうかは知らないが」
「僕に神がいるかどうか……」
 また考えさせるようなことを言ってくる。神父はやはり謎の多い人だ。僕が考え込もうとしたとき、
「ご注文はお決まりですか?」
 店員さんが注文票片手にやってきた。
 まずい。全くメニューを見ていなかった。
「ハチガイのアヒージョ1つに南国トマトのモッツァレラ和え2つ、シェフにおまかせセットを2つだ」
 いつの間にかメニューを開いていた神父が流れるように注文する。
 店員さんはメモを取り、かしこまりましたと言って去って行った。
 何か聞いたことのない食材名だったが異世界だしそういうものだろう。それより、
「神父、僕の好物知ってたんですね」
 アヒージョもトマトのモッツァレラ和えも僕の大好物だ。
「当然だろう」
「当然なんだ!?」
「観察していればわかる」
「僕、そんなにわかりやすいですかね」
「君は表情がよく顔に出るからな」
「そうなんだ……ちょっとショックだな……」
「どうしてかね?」
「自分が何を考えているかなんて周囲に知られたくないじゃないですか。だって僕の考えてることなんてみんな絶対知りたくないに決まってる、僕は亀だし」
「私が君の考えていることを知りたくないと思うか?」
「え……」
「私は知りたい」
「それは」
「君もそうではないのかね? 私のことを知りたいと。そう思っているのではないのかね」
「えっ何で知って……いややめてください、恥ずかしいのでそういうこと言うのやめてください」
「なぜかね?」
「なぜってそりゃあ……」
「お待たせいたしました~」
 頼んだ品がどどんとテーブルに置かれる。えっこれ全部一気に持ってきたの? どんな運搬技術だ、異世界レストランってすごい。
「また何かありましたらお申し付けください~」
 店員さんが去っていく。
 料理が湯気を立てている。
「食べないのかね」
「食べます!」
 僕は南国トマトのモッツァレラ和えを口に運んだ。
 おいしい。みずみずしいトマトに少し濃厚で弾力のあるモッツァレラの歯応えがすごく合う。
「おいしいです」
「よいことだ。このレストランを選んだのは君で、それが美味であった。君はそのことに自信を持つとよいだろう」
「そうですかね?」
「そうだ」
 それから神父と僕はいつものように、今日あったことから世界の法則まで色々なことについて話しながらディナーを食べた。
 お会計を済ませた後、外に出ようとしてなぜかレストランが空を飛んでいることに気付いたが、神父が
「任せたまえ」
 と言うが早いか僕を抱えてレストランから飛び降り、僕があわわわわと言っている間にアパートに着いていた。
「また行きたいものだな」
 部屋の扉を開けながら、神父はそう言った。
「そうですね」
 社内報を台所の本立てに並べながら、僕は応えた。


(おわり)

by 湖無カー(Wkumo)

お読みくださりありがとうございます。
この話は自サイトに載せている完結済長編『亀のゾンビサバイバルログ』https://plus.fm-p.jp/u/shellvio/book?id=2 の番外編です。
ちなみに自サイト『甲羅色の紫』https://plus.fm-p.jp/u/shellvioには長編以外にも短編がSFからファンタジー、ホラー・暗めの純文学まで100作品ほどございますので、お暇なときにでもふらっとお立ち寄りくださりますと幸いです。

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