暇潰しの夜 13/13
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数週間後の夕暮れ校舎。
「先輩。今日は夕陽が綺麗なので、どこかの屋上から華麗にバンジージャンプと洒落込み
ましょう。ロープは首につけるといいですよ」
「はいはい。いいから帰るよ灰崎」
放課後雑談を終え、昇降口でがちょんと下駄箱を開けると。
「…………あれ?」
白い封筒が入っていた。
差出人の名前はない。かさこそと手紙を開けて、僕はそこにある文字に目を通した。
「……」
なるほどそう来たか。
「……灰崎、これ」
「え?」
僕は手紙を灰崎に見せた。
相変わらずの可愛いイタズラに、2人してふふふと笑い合う。
「ちょっとだけ進歩してるね。何点?」
「38点。一生懸命な可愛い文字の分だけ加算です」
そこには血文字が綴られていた。
怖ろしい赤色で、だけど一生懸命書いたのが分かる下手くそさで、それでいて女の子ら
しい可愛い文字で。
“ありがとう、ずっとお幸せに。新装版メリィより”
ほんと変な都市伝説さんだ。常にいろいろ矛盾してるんだよね。
「……まぁ、いいけどね。別に」
「ふふ」
「ん? なにさ灰崎」
灰崎は花のように顔を綻ばせて言った。
「だって、『お幸せに』だなんて。まるでカップル認定みたいじゃないですか」
「ああそれはないね。ありえない」
「えぇ、ありえません。死者と生者が結ばれるなんて、あってはいけないことですから」
昇降口。
静かに錆びる放課後に、幽霊少女と微笑を交わす。
……死者と生者が結ばれるなんて、あってはいけない。
誰よりも近く、誰よりも遠い関係線。
一瞬駆け抜けた砂埃の匂いは、すぐさま散り散りになって跡形もなく消えた。
「じゃ帰るよ灰崎。とりあえず今日はカラオケ行くからそこんとこヨロシク」
「はい。どこまでもお供します」
その後しばらくして、新しい都市伝説の噂が流れ始めたらしい。
聞きたい? それがなんでも「助けてメリィちゃん」とかいう、怪談なんだか何なんだ
かよく分からない話でさ。
ある何でもない夕暮れに、いきなり電話が掛かってくるんだって。
電話を取ったら明るい女の子の声で、『わたしメリィちゃん、いまあなたのそばにはい
ないんだけど。もし恐いユーレイに困らされたらいつでも相談してね。ピンチの時は、き
っとメリィが助け行くよ』……なんて、本当に意味不明なことを言われるらしい。
お節介なユーレイもいたもんだ。
ごく一部では本当に危機を救われたという話も出回ってるんだけど、僕としてはどうで
もいい。ただその健気なメリィちゃんがケガしないことを祈るばかりだ。
「はぁ……1行で分かる都市伝説の真相。メリィちゃん、ひとでなし辞めました」
こうして今日も暮れていく。
カラオケ・ゲーセン・ネカフェにユーレイ。
死ね死ね会話に華咲かせ、たまには人助けなんかもやりながら、セミのように短命な日
曜を待つ。そんなつまらない幸福の途中で、今日も今日とて彼女は笑う。
「夕焼けですね〜」
「そうですね」
「血のように赤いですね〜」
「そうですね」
「国道で踏み潰された野良犬をおもいだしますね〜」
「……そうですね」
夕暮れどきの通学路、2人ぼっちの帰り道。
僕らの日々はまだまだ続く。
/暇潰しの夜
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