暇潰しの夜 01/13
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「ドリームクラッシャー!」
なにそれ意味わかんない。
ところでH崎、メリーさんとか知ってやがりますかメリーさん。
そう、あれだよあれ。あのメリィさん。
電話が来たんですたぶんFrom地獄とかそこら辺の別次元から。
「……はぁ。それがどうかしたんですか?」
僕が切羽詰まった相談を持ちかけると、友人のH崎さんは平然と言ってのけやがったの
ですね。とりあえずルーズソックス蹴ってみたんですけど何故か空振りでした。ばしゅん
すかっ
場所は夕暮れ校舎聞こえるは下校のチャイム、鼻を掠めるチョークの匂いと来たもんで
さどるあ。
で、目の前のH崎さんは、もはや彼女のシンボルと化している十字架ピアスをぴきんと
鳴らし、気怠そうに言ってくれるわけでさどるあ。
「えっと、確かメリィさんってあれですよね。来るんですよね。か細い声で『あたいメ
リー産、いまオハイオ州で貨物船に乗ってるよ』とか電話中継しながらちょこっとずつ」
当たってるようでズレてんだけどさH崎、太平洋経由のメリィさんはさすがに僕も初め
て聞いたよ。
「あ。先輩先輩。
ところでメリー産ってことはあれですかね、もしかして地名だったりするんでしょうか」
ねぇよ。
「はっ!?」
しかしそこで何かに気付いたようで、H崎はくるりと茶のツーテールを揺らし、なにや
ら物憂げな視線を窓の外の運動場に向けました。静けさの教室。そのままぽつり。
「通るのかな……生き残れるのかな、ロアナプラ周辺。魚雷艇に強奪されちゃわないかな
メリー産。ところでメリー産の、何なんでしょうね?」
彼女の心配そうな視線の先では、僕の友達の黒川ヤマトっちが金属バットを手に、僕の
友達の朝野トウヤっちがロケットランチャーを手に駆け回っていました。ぴぴぴっ、電波
受信。
『送信者:メリィちゃん
本文:わたしメリィちゃん。いま赤木市内のマツタケ山の中なんだけど……えっと、あ
のその。非常にお尋ねしにくいのですが、一体そちらへはどうやって行けばいいですか?』
最近の都市伝説は電子メール使えるらしいッス。
怒号と爆炎吹きすさぶ校庭を、華麗に駆けるヤマトっちの金属バット、軌跡はキラキラ。
夕陽反射。みんなバカ。そして迷子の迷子のメリィさん、それたぶん市内の反対方向で
すもういいです。
+
その日メリー産は到着しませんでした。
+
翌日。
『送信者:メリィちゃん
本文:わたしメリィちゃん。いま縁条市内の早坂神社って所にいるんだけど……えっと、
あのその。非常にお尋ねしにくいのですが、一体そちらへはどうやって行けばいいです
か?』
神社て。
+
翌々日。
『送信者:メリィちゃん
本文:わたしメリィちゃん。突然ですが助けてください。トイレの花子さんに追いかけ
られています。すごくおっきな便器振り回してます。ちょっとすれ違い様に『うわ、病ん
でるオーラ』って呟いただけなのにTT』
……。
+
翌々々々日。
さすがにここまで待たされると逆に楽しみになってくるもので、僕は放課後に夕暮れ校
舎で友人のH崎と、メリー産の一体どんな食べ物が届くのか、果たしてそれはどんなカタ
チの植物なのか、等々の談義を交わせるほどには余裕でした。
「おっぱい林檎なんですよ」
ぴし、と人差し指を立てたH崎嬢。
僕は思わず平手で頭をはたいていました。華の女子高生がなんて言葉を吐きやがるのか
とね。結局また空振りしたんですけど。
「先輩?」
「……えぇと、あの。ね?」
「はい、なんですか先輩」
「なに? その、やったらめったら卑猥な果実」
「つまりはおっぱい林檎なんですよっ!」
ずどーんと彼女の背後で爆炎が上がりました。
特殊効果かと思って戦々恐々していると、校庭でまたあの問題児2人が闘ってるだけで
した。今日の種目は──え、なんかキャタピラの音が聞こえるんですけど。
「いいですか先輩。メリー島と言えば南国の隠れ無人島で、ガラパゴス並みに奇特な生物
がいて、南東にあるララバイサンゴ村の人々は日々、旅行客相手に果物を売って生きてい
ます」
「無人島なのに?」
「しかし! ただの果物では売れないんですッ!!」
めきどかずばごきがしゅこーん
いきなり校舎全体が激震して、僕は危うくつんのめってしまう所でした。
驚いて校庭を見てみると、問題児2人がさっきのキャタピラ音はどこへやら、いつの間
にかカードゲーム対戦に切り替えているのでありました。あ、デュエルディスク。
「えー」
「そこでララバイヒトデ市の人々は頭を捻らせ考えました……何か新しいアイデアを。斬
新な果物を開発して旅行客に馬鹿売れウハハしなければ……このままでは、我が社は経営
破綻して! 社員の人数分の首吊りネクタイを用意するはめにっ!?」
アルティメットバースト! おぉ、ヤマトっちここに来て3体融合出しやがったよ。す
げー。
「……ところでメリー島の話じゃなかったの?」
「故に! たび重なる遺伝子配合をたび重ね! そうして生み出された画期的かつ斬新す
ぎて新しい、山形県民もびっくりの大躍進それこそが──!」
「おーい」
「おっぱいプリンなのですッ!」
かつーん。
なんか「><」こんな顔でH崎さん拳振り上げてますけど、最初リンゴじゃなかったっ
けそれ。
「あ……おっぱい林檎なのですッ!」
ジャキィィィイイイイイイイン
決まった。言い直しやがった。ぴぴぴっ、電波受信。
『送信者:メリィちゃん
本文:わたしメリィちゃん。いまあなたの家の近くにいるのb』
そんなメールが届いてしまったので、僕はひとまず「ごめん。急いで帰るからローソン
で時間潰してて」と返信しておきました。ゴメンネ都市伝説! いま会いに行きますb
……メリィさん待ち第5日目。
僕はとうとうあの有名な都市伝説に、直接お会いできる模様です。
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