斬-the black side blood union-
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「じゃ、そゆことで」
何故か包帯まみれになった美空が手を上げて。
「おう。またな」
何故か生傷だらけになった俺が応える。
「美空ちゃん、またね~」
ぴく。
1人だけ無傷だったアユミのキラキラ笑顔に、美空が頬を引きつらせた。
モノクロ服も妙にボロボロ。道行く人々が何事かと俺たちを振り返るが、別に何もない。
アユミの本気ブチギレなんて怖ろしい事実はたぶんなかった。
「ま……また、ね。アユミ。今日はほんと、ごめん、ね?」
「うん、また一緒に遊ぼうね!」
メルヘン少女の眩しすぎる笑顔に、俺もじりと後ずさっていた。
カタい動作で手を振って、歩き出した美空の背中は暗雲を纏い、ぽつぽつと独り言を呟
いていた。
「……ほんと何なのよあれ、何なのよ一体。怪力? ふざけてんの? マジ有り得ない…
…そもそもどういう原理だ? どういう理屈を使えばあのか細い腕で8tトラック持ち上
げられるわけ? えぇそうよ、死ぬかと思ったわよ本当に。ああやだやだ、恐い恐い……」
あいつたぶん数日はうなされるな。俺も危ういけど。
「美空ちゃん元気ないねぇ。何かあったのかな?」
「さ、さぁ? 道端でゴジラにでも襲われたんじゃないか」
「ふーん……ゴジラさんかぁ」
透き通った瞳が俺を射る。
ピュアすぎて何考えてるのか分からない顔だ。やばい。話題を変えろ俺。
「そ、そうだアユミ! 俺の部屋に壊れたまんまのギターあっただろ、あれいまから修理
してもらいに行こうと思うんだけど、一緒に来るか?」
「うん、行くっ!」
キュートな笑顔にそっと胸を撫で下ろす。やべぇ、ばくばくいってるよ。恐怖で。
でもよかった。
どこからどう見ても普段のアユミだ。銭湯からの帰り道、隣を歩く赤髪の少女はご機嫌
だった。
「ねぇ羽村くん」
「ん」
アユミが少しだけ淋しそうに呟いてきた。
「どうしていっつも美空ちゃんと喧嘩するの? 美空ちゃんのこと嫌い?」
「まあねぇ……別に人間として嫌いってわけじゃないんだが」
あれだ、たぶん前世の問題だろう。蛇とマングースとかそんな感じ。
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