斬-the black side blood union-
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真夜中の廃工場で。
「………」
その少年は、1人きりだった。
金髪の。
背の低い、柔和な瞳の高校生。
「……雨か」
パイプ椅子に座ったまま、彼は静かに天井を見上げた。
灯りひとつない夜の中。
「……泣いてるの? 亜由美」
足元には缶コーラ。
ついさっき、見知らぬ少年に奢ってもらったものだ。茶髪にチェーンのピアスなんかつ
けた不良だったが、彼は割とあの少年のことが気に入っていた。
そんなことを思い返す表情はどこか色抜けた微笑。ひどく、何かの欠如した瞳だった。
「心配しなくていいよ亜由美。泣く必要なんか、何もない」
自身の半透明の手を見下ろしても、彼の笑顔は1ミリも動かなかった。
その人差し指がまっすぐに伸ばされ、遠くに落ちていたゴミ袋に向けられる。
雨音の中。
彼の呟きだけが、小さく響いた。
「……ばーん」
言葉に唱和する現実。
ポリ袋が弾け、中身を溢れさせ、沈黙した。
また雨音だけが取り残される。
夜闇の中で。
「もうすぐ、助けに行くから──さ」
そんな呟きも、聞く者はなく。
誰も彼の存在には気付かない。
──その亡霊の名は、吉田流星という。
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