斬-the black side blood union-
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「なにしにきた、あほ」
「あほめ、なにしにきやがったなのです」
目的の神社に辿り着いた途端、睨まれた。
鳥居の下で遊んでいたらしい小娘2人。着物なんか着込んで下駄まで履いた時代錯誤の
双子。そいつらが、不機嫌そうに俺を見上げてくる。
いきなり出くわすとはついてない。
「……雪音さんはどこだ?」
できるだけ刺激しないように話を逸らす。
「碧、はむらがなんかいってるよ」
「藍、耳をかしてはいけないのです。きっとようせいさんにはなしかけているのです」
効かなかったらしい。
まずいな。殺されるやもしれん。
「あ、はむら。そうぞうをぜっするほど巨大なれっさーぱんだが階段をかけあがってくる」
「はぁ?」
「すきやきっ! なのです」
「な──うおおおおおおおおお!?」
隙アリと言いたかったらしい。
油断していた俺は見事に蹴落とされ、階段を転がり落ちた。派手に。ずだんっぼてぼて
ぼてーっと。視界ぐるぐる、のち沈黙。
「…………」
信じられない心地で頭に手を当てる。
血は出てない。
かすり傷で済んでいた。
「おまえら! いくらなんでも死ぬだろうが!?」
絶叫するが、遅かった。
「いくよ碧」
「はいなのです、藍」
双子は階段の上で頷き合い、俺を睥睨しながら唱える。
「「──花無華《はなむけ》」」
ぱん、と双子が手の平を合わせた。
刹那、階段全体を風が吹き抜け、一瞬にして白い霧で覆ってしまう。
はらはらと注ぐ無数の花弁。
あっという間に、双子の呪いによる抜け出せない無限回廊が完成していた。
「……おい」
効能は確か、無限化とか捕獲とかそんなんだ。
たとえばいま俺は階段にいるので、この階段が無限になったということになる。
階段上を目指したところで永遠に辿り着けないし、逆に駆け下りても辿り着けないし、
階段の外に跳べば逆サイドに着地する。そんな悪質な呪いだった。
「にゅっふっふっふ」
「むっふっふっふ」
檻の中の俺を遥か頭上から見下ろしてくる双子。
双子の、悪霊。
この神社に寄生している害悪だ。
「えぇと……出してくれる、んだよな?」
「やだ」
「たすけるりゆうがないのです」
このまま野垂れ死ねと言いたいらしい。
無邪気にして残忍。子供って純真、ゆえに酷薄。
「はぁ……」
仕方なく、無駄と分かりつつも俺は歩き出す。重い足取りで。妖艶な花吹雪の中を。野
良犬に噛みつかれた心境だった。
「はいはい、そこまで」
途端にぱんぱんと響く音。誰かが手を鳴らしたらしい。
階段の頂上に現れたもう1人のシルエット。カタチは和服、声は名琴。
「藍、碧。羽村君を解放して」
あきれた声に促されて、双子は渋々俺を見下ろした。シルエットだが分かる。きっと獲
物を逃がした小動物の瞳。
「うみゅ、姉様がいうならしかたないな」
「はい、姉様がいうからしかたなくなのです」
ざぁぁあああと霧が引いていく。花弁もさらりと消え失せる。
安堵する俺を見下ろして、彼女はいつもの明るい笑顔で言った。
「いらっしゃい羽村君。待ってたわよ」
白い小袖と緋袴の巫女。
縁条市狩人総括、早坂雪音がそこにいた。
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