斬-the black side blood union-

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#ex_ / カオス!-end of world-
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 秋の夜長もどこへやら、寝て覚めて起きたらなんと朝だった。
「…………」
 朝である。
 断固として朝なのである。
 な〜んかおかしい気もするが、ついさっきまで訓練室で誰かにボコられてた気もするが、
まぁそんなことより朝なのだから身体を起こす。
 窓の外は亜空間。
 何故か砂漠が広がっていた。
「…………」
 見渡す限りの砂砂砂と、立ち並ぶ何故か自動車の群れ。すべてエンジンを切って停車し
ている。
「……はぁ」
 そう。
 我らが住めば都の縁条市も、とうとう不況に巻き込まれて地獄の完全経済崩壊に見舞わ
れた。
 自治体が移民団体に喰われて住民全員に強制退去勧告発令、家を壊しビルを壊し遊園地
を作るとかなんとかいう流れになったと思ったら、その移民団体がもっかい経営破綻。
 挙げ句の果てに日本初の超大規模駐車場“縁条ピットイン”と成り果ててこの有様なの
だった。
 この辺りに民家なんて、もはやうちだけなのである。
「…………」
 頭の中心部にものすご〜く克明な違和感が浮かぶが無視。ついさっきまで訓練室で先生
にトドメ刺されるシーンだった気もするが錯覚だと納得する。
 そんなことより俺は、ドアに隠れて不思議そうに俺を観察してる少女を見返した。
「……ははぁ……」
 感心されたらしかった。
 何だろうあれは。童話に出てくるお姫様?
 何故か、熱心に俺を観察している。
「むぅ……ほぉ〜……」
 何にも増してすげぇ弱そう。絶対非戦闘員だこいつ。
 で、
「誰だ? お前」
「はいぃ。私は、たんぽぽはあなたの呪いなのであります。びし」
 と、指差されてしまった。
 まったくもって頼りない動作で。
 俺は疑わしくそのプリンセスを観察し返した。
 どう見てもただの人間なんだが。
「俺の呪い? 何言ってる、俺に呪いなんて便利かつ都合のいい主人公属性はねぇよ。ん
なもんあったらまるで現代ファンタジー小説じゃないか、有り得ねぇよハッハッハ!」
「はいぃ。確かに、そんなものがあったらバトルが熱くなってしまいます。熱血主人公が
巨悪と戦ってみたり、ヒロインを取り返すために戦ってみたり、ピンチになったら新しい
魔法を出せばいいやーみたいなことになってしまいます」
「いわゆるインフレ現象だな。当人たちからすりゃ地獄絵図だ」
「そう、あれはとても危険なんです。だって、この現実でアレやると、医学が主人公の負
傷に追いつけなくなりますから。最終的には、死にます」
 ずぅ〜んと影を纏う。俺はあぐらをかき、欠伸しながら少女に返した。
「つまり、やっぱりお前は俺の呪いなんかじゃないわけだ」
「ですが私は、たんぽぽは確かにあなたの呪いなのであります。びし」
 と、また指差されてしまった。
 言い返そうとしたが、その軟弱そうな少女――たんぽぽを見返し、俺はふとひとつの疑
問を抱いた。
「……じゃあ聞いてやるよ。仮にお前が俺の呪いだったとして、お前は、一体何の呪いな
んだ? どんな現象を起こせるっていうんだよ」
 例えば金属バットの形をした呪いがある。
 衝撃波を生み出す攻撃的な呪い。
 例えば翼の形をした呪いがある。
 とりあえず天使になれる。飛べたりとか。
 さて、では、俺が生み出したらしいこの少女型の呪いは、一体どんな効力をもたらして
くれるというのだろうか。
 少女――たんぽぽは、胸を張って誇らしそうに答えた。
「“無能”の呪いです」
「は?」
「ただ私がこの世に存在するだけで、あなたが役立たずのロクデナシ無能狩人で在り続け
られるという、代価要らず、燃費ゼロ、ただ無償でマイナス結果だけを引き起こし続ける、
そんな素晴らしい呪いなのでありますたんぽぽは」
 がっし。
 頭蓋を掴んだ。
 ひっと怯んだ少女に呻く。
「……なぁ。それって、ただの疫病神なんじゃねぇか?」
「いやあああ!? いいいい痛い痛い痛い! たんぽぽのか弱いスイカが頭蓋割りのごと
くばっこり割れてしまいます、おやめくださいっ!」
「何?」
 待て、俺は手を乗せてるだけだぞ。握力なんて100グラムくらいしか籠めてない。
 手を放す。
「……」
「はぁ、はぁ――っ! いきなり何しますかあなた! たんぽぽは世界一ひ弱な呪いなん
です! もっと丁重に扱って下さい! 私、ゲームで言うと防御力が限りなくゼロに近い
真綿のような存在なんですよ!」
「なるほど……こりゃ確かに、無能の呪いだ」
 すげー使えない。
 こんなんに憑かれてたわけか、俺は。道理で役立たずだのろくでなしだの言われるわけ
だ。
「……で? お前、一体俺に何の用だよ」
「そうでした。たんぽぽは本日、とても重要なお知らせを持って来たのでした」
「重要なお知らせ?」
「はい……実は、」
 たんぽぽはすぅと息を吸い込み、深呼吸して、何故か窓枠に脚をかけた。がっ。
 お姫様スタイルの少女が。
 まるで埠頭に佇む水夫のような格好で、言った。たぶん渋い声(あんまり変わってな
い)で。 
「――おれたちの戦いは、まだまだ始まったばかりだぜ。たんぽぽ先生の次回作にご期待
ください。ご愛読ありがとうございました、天獄製長編小説「斬-the black side blood
union-」、ここに【連載打ち切り】を宣言いたします」
 砂漠の風が吹き抜ける。
「…………」
 思わずモアイになってしまった。
 なるほど打ち切り。
 反芻、俺は片眉を吊り上げる。
「は?」
「いえ、あの、すいません。忘れて下さい。いまのはほんの他愛もないブラックジョーク
ですので。ちなみに嘘です」
 こほんとひとつ咳払いして、少女は改めて俺に向き直った。
「ところでですね、私思うのですよご主人様」
「ご主人様て……ああ、で?」
「もしかして、連載が一向に進まないのはご主人様が無能すぎるからなのではないかと」
「…………」
 先生、話が噛み合いません。
「……えぇと、OK。待ってくれよ? いま噛み砕くからな、あー大丈夫。これでも話は
分かる方だ」
「さすがですご主人様っ!」
 きゃららんと星を纏うプリンセス。
 俺は目を閉じ眉間に指を当てて考える考える考える。
 まず謝罪から始めよう。
 人間は自分の非を認めてこそ前に進める生き物だ。
「つまりはその、何だ……俺が弱いのがいけないわけだな。ああ自覚してる。確かに、ま
だいっぱしの狩人を名乗るにはちと早い。所詮見習いの無能力者だからな、周囲にも大い
に迷惑を掛けてるだろうと思う。反省してるよ」
 うんうん、と嬉しそうにうなずくたんぽぽ。
 俺はその顔を見ながら必死で意味を、この子の言葉の真意を探る。
「で、その、なんだ……連載? それはなんだ? ジャンプ漫画の話か? OK大丈夫だ、
たぶんどっかで話題が飛躍したんだよな――えぇと、あー」
 察するに、恐らくどっかのジャンプ漫画が連載休止でもしてるのだろう。
 たんぽぽはその漫画のファンなわけだ。
 で、ファンとしては、作者都合の連載停止などまったくもって許せないと。
 そこで俺が、曰くたんぽぽの生みの親であるご主人様(仮)が登場するわけだ。
 そうか、だんだんと分かってきた。
「……なるほどな。そういうことかたんぽぽ」
「そうです! さすがですご主人様っ!」
 これはあれだ。
 たんぽぽは俺に、ダダをこねているわけだ。
 例えるならそう――

Q1:『ママー! どうしてこんしゅうのプリキュアおやすみなのー!? やだー! な
んとかしてよー、うあああああ!』

 つまりこういうことなのだろう。
 目の前の少女は、わくわくドキドキな期待念波を俺に送信している。
 乙女心の末端が見えた。
 掴んだぜたんぽぽ。
 それに対する答えはこれしかない。

A1:『はいはい、いまDVD買ってきてあげまちゅからねー。ちゃ〜んとボックスで全
話コンプリートしてあげましょうね〜』
『わーい! やったー! お母さん大好き〜!』
『ところでヒデちゃん? そろそろあなたもいいお歳なんだから、いいかげんプリキュア
だけでなく、就職のこともちゃんと真剣に考えるのよ?』
『るっせぇババア! 殺すぞてめェ!』
『なによ! お金がいる時ばっかり私に頼って! あなた一体いつまでそうしてるつもり
なの!? まったくもう、毎日毎日パソコンばっかり――』

 ――うあああ。
「マジかよ……まさか大きいお兄さんの方だったとは……」
「はぁ!? なんなななななにがですかご主人様っ!?」
 む、いかん。思考があらぬ方向に飛躍してしまった。
 額に手を当て軌道修正、簡潔に纏めて、俺はぴんと人差し指を立てた。
「ハンター×ハンターの話だろ」
「違います」
 あるぇ〜?
「……じゃあ、」
 何なんだ一体。
 ぽくぽくちーんと瞑想するが、どう頑張っても答えは出ない。
 たんぽぽ見ている。
「ッ!?」
 とその時、俺の脳裏を閃光が駆け抜けた。思わず膝を叩いてしまった。
「そうか! そういうことだったのかたんぽぽ!」
「はいぃっ!」
 肩を強張らせる少女。
 まじまじと見上げてくる双眸を観察する。
 長いまつげが目に映る。
 なるほど、どうして気付かなかったんだ。これ以外に考えられないじゃないか。
 笑みを零す。
 間違いなくこれで正解だ。
 俺は一字一句、刻むように、答えを告げた。
「もしかして」
「はい」
「これ…………俺の、夢、か?」
 ぱちくりと瞬きする瞳。
 たんぽぽ溜息。
「――チッ。」
 意識は急速に浮上していく。
 まず俺の目に映ったのは、訓練室の天井だった。




                             / まだまだ続く。








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