斬-the black side blood union-

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 ゲーセンは駄目だった。
「…………」
「…………」
 ポケットに手を突っ込み、俺は黙々と歩き続ける。
 隣に優奈。さっきよりも元気ない。
「はぁ……」
 こっそりと額に手を当てる。
 やってしまった。俺がアホだった。ゲーセンで亡霊と一緒に遊べるはずがなかったのだ。
さんざん気まずさを乗算するだけだった。
 仕方なしに、またこうして商店街を歩いているわけだ。
「…………」
「…………」
 会話もない。
 唯一さっきのゲーセンで出来たのは相性占いだけだった。素敵なタイミングで『最悪』
と出て泣きそうになった。
 ちらりと横顔をのぞき見る。
 綺麗な少女だ。
 長い髪を流しながら、かすかに困ったような表情で、時折こちらを窺っては視線が合っ
た途端に顔を逸らす。
 足を止め、青空を見上げて立ち尽くす。
「……どうすりゃいいんだ」
「えっ?」
 亡霊と一緒に遊べるスポット。
 思いつかない。そんなのどこにもあるわけがない。助けてくれアユミ、どこ行っちまっ
たんだよぅ。



「おっっっねぇちゃーん!」
「え?」
 遠くから声が聞こえて、わたし・高瀬アユミは顔を上げた。
 場所は早坂神社の真下。石畳の1段目に腰掛けていた。
 缶詰をついばんでいた猫が、何かに気付いて逃げていく。すり替わるようにずだんっと
現れる女の子。
「あ、雛子ちゃんだ」
「アユ姉、ちわっす!」
「……ちわっす」
 ビシと敬礼する雛子ちゃんに倣い、香澄ちゃんもゆるりと敬礼した。
「はい、ちわっす。珍しいね2人とも。今日は優奈ちゃんは一緒じゃないの?」
「はいっ! 優奈ちゃんはいま、羽にぃとデリート中なのでありますっ!」
「……デート」
「デート中なのでありますっ!」
「なんですと?」
 きらん、とわたしは目を光らせた。それはもしかして――
「優奈ちゃんの希望?」
「いいえ全然。優奈ちゃんにそんな気持ちはサッパリ皆無なのであります。むしろあたし
が無理矢理させたと言いますか」
「あれれ……」
 ラブコメしないのか。残念。
 雛子ちゃんは困ったように説明しようとする。
「えっとね、これにはいろいろ事情があって。その、なんていうか――」
 その時。
「「「!?」」」
 爆音が、早坂神社を激震させた。
「う……っ!」
「な、何!? アユ姉! この音なに!?」
 思わず耳を塞いだ。
 石畳の頂上から。ものすごい強さの轟音が、雨のように降ってくる。空気が割れてしま
うくらい。そのくらいに、壮大な異音。
 なんだろう。分からない。とにかく行ってみよう。
「2人はここで待ってて! すぐ戻るから!」
「アユ姉!?」
 駆け上がる。
 耳をつんざく何かの悲鳴。何だろう。一体神社で何が起こってるんだろう。
 背後の声。
「…………雛子ちゃん、行こう」
「うん、分かってる! 待ってアユ姉! あたしたちも行くよっ!」
 重力場みたいな轟音が、降り注ぐ。




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