斬-the black side blood union-
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手が。
無数の腕が、西通りの地面から突き出している。
その真ん中に立ち、少女は冷たく言い放った。
「…………知らない。
そんなのどうでもいいよ。それより優奈ちゃんを返して。この人殺し」
吉岡、雛子。
「……うそ…………」
アユミの瞳が愕然と揺れている。俺も似たようなものだったろう。ただ困惑のままに注
視していた。
2つに纏め上げた金髪。
ピンクのパーカーに、デニムスカートと縞模様のニーソックス。年相応の華奢な肢体も、
どこか野良猫を連想させる瞳も全く同じ。殺害される前日のままだった。
だが、バチ、と滲んだ輪郭に胸が詰まる。
「…………っ」
あんなにも生気溢れていた少女が、いまは。
残酷なまでに質量のない、幻像《ぼうれい》だった。
「畜生……」
地面に拳を打ち付ける。
なんだよこれは───────何なんだよこれは……。
「……なんで……雛子ちゃん…………」
死してなおこの世に残留する衝動。
人はそれを亡霊と呼ぶ。
ひとのカタチをした呪い。
あの無惨な死の間際に、吉岡雛子は呪いを抱いてしまったんだ。
──呪いを抱くほどに、彼女は絶望しながら死んでしまったんだ。
「…………ああ」
血の流れる拳を握り締め、今更何をと自嘲する。
見ていたじゃないか俺は。悲しすぎる彼女の死に顔も。亡霊として残留している子供た
ちの姿も。ただ、考えないようにしていただけじゃないか。あいつが死んでから今日まで
ずっと、その最悪の仮定を。
「復讐かな?」
相沢は、品定めするような笑みで雛子を見て言った。
「僕に復讐しに来たのかな。ああなるほど、合点がいった。それは仕方ないね。だって、
君を殺したのは僕なんだから」
「え──?」
傍らの、天女の少女が呆然と相沢を見上げた。その戸惑いを受け流して、相沢はなおも
笑みながら雛子に告げる。
「復讐を願ったんだろう? それがキミの呪いなんだろう? れっきとした悪霊だね。だ
が何も間違っちゃいないよ。君のように愛らしい子供が死ぬのは間違いで、殺した大人は
死ぬべきだ。そう、復讐。身勝手な大人に断罪を下す。それは子供に出来る唯一の反抗で
あると僕は考える」
「…………」
雛子の顔が翳った。
暗い笑みで、俺たちには1度も見せなかった表情で、少女は呟いた。
「そう……あたし、復讐のために生きてるんだ?」
悪夢だった。
あの吉岡雛子が、真っ黒に淀んだ瞳で、歪んだ笑みで相沢を睨んでいる。
「うん。だって、僕が憎いだろう?」
相沢の笑みに淋しそうな色が混じる。
「ならやることはひとつだね……」
雛子が顔を上げた。
そして相沢を見つめ、静かに
腕を振り上げる
。
「死んじゃえ」
突風がなびいた。
「!?」
振動。衝撃破。
相沢の1m手前の地面に亀裂が入っている。雛子が腕を振り下ろした瞬間に。
「……呪い……か」
不可視の衝撃破。
攻性の呪い。
それはつまり、雛子を構成している呪いが憎悪であることを示す物証。
──やはり復讐を願ったのか。それがあいつの残留してる理由なのか。
「ふん──!」
雛子が俺の横を抜け、駆け出そうとする。
「……え?」
俺は咄嗟に。
子供たちを振り払い、雛子の腕を掴んで、止めていた。
細い腕。あまりも細すぎる手首だった。
戸惑うように見返してくる瞳に、告げる。
「……行くな……雛子」
「やめて、雛子ちゃんっ!」
アユミが叫んだ。相変わらず相沢に踏みつけられながら。
雛子の双眸が俺とアユミを捕らえる。はっと澄んだ瞳を取り戻す。そして。
「……誰?」
「え?」
心底困惑したように、少女は首を傾げていた。
無理もない……。
「そうか……覚えて、ないのか」
「うん……」
アユミは崩れそうな声で言う。
「な……何言ってるの羽村くん。だって雛子ちゃんだよ? わたし、知ってるよ?」
冷静なままのアユミならすぐに理解できたのだろうが、そこまで図太い相方ではなかっ
た。
俺は額を押さえ、残酷な現実を、泥のように吐き出した。
「亡霊って存在自体がズレてるんだ。その中で生前の人格を保ってる事例は低確率。また
その中のごく一部だけなんだよ……記憶を完全なカタチで保持してるのなんて」
悲しそうな双眸を見上げる。
雛子は、俺たちのことを、覚えていない。
失われた関係は取り戻せないんだ。1度の死を経て、俺たちは完全な赤の他人になって
しまっていた。
「そっか……知り合いなんだね。あたしたち」
野良猫のような少女は、泣き出しそうな瞳で俺たちを見下ろしてきた。
「ごめんね、何も覚えてなくて。大丈夫。あなたたちには何もしないよ」
いまにも消えそうな儚い微笑。
胸の奧に鉛が詰められていくようだった。
「でも、アイツは許せない」
「……行くな」
「けど──」
俺は腕を放さなかった。
放すものか。
こんな、こんな細い腕に、人殺しなんてさせてはならない。
「行かせるかよ……お前は、お前だけは向こうに行っちゃ駄目なんだ」
呟いた。
強く、強く腕を握りながら。
顔を上げ、戸惑う少女に俺は告げる。
「……お前が行こうとしてるのは人殺しの道だろ。なら、俺はお前を止める。この手は絶
対に放さない」
「…………」
しばらく迷うように目を伏せた後。
「……うん、分かった。ごめんね。ありがと」
雛子はまた、力無く、笑った。
瞳が澄んだ色を取り戻しているのを見て、俺はようやく手を放した。
「…………悪いな。使えない大人で」
心の底から謝った。
使えない。
本当に使えない、役に立たない最低の無能だ。俺は。
「でも待って。あたしの友達を奪われた」
「何……?」
微笑を消し、雛子は決然とした瞳で相沢を見た。
「あの子。優奈ちゃんっていうの。あたしのユーレイ仲間なんだよ」
相沢の隣にいる、天女のようなショールを纏った少女。あいつか。
「それに……もう1人。香澄ちゃんもいない」
優奈と、香澄。
2つの名前を胸に刻んだ。優奈と香澄だ。絶対に忘れない。拳を握って立ち上がる。
「……分かった。死んでも取り返す。俺たちが」
「いいよ。あたしが自分で取り返す」
「…………」
強気な声を当てられて、俺は隣りに並んだ少女を見下ろしていた。
「これだけは譲れない。例え誰を困らせることになっても、友達だけは奪わせない」
不味いと思う反面、変わらない真っ直ぐな横顔に、心のどこかで安堵していた。
「………っ」
この気丈さ。雛子だ。やっぱり雛子のままなんだ。
「でも、待て。お前じゃあいつは倒せない」
相沢は、悠然と俺たちを待っていた。
その渦巻くような黒い瞳。
「………うん、見てたよ、予知能力。でもほんとなの?」
大気に混じった黒い呪い。相沢の“全域知覚の呪い”。すべてを無意識に取り込む未来
の演算。
「偽物だ。でも、本物とほとんど大差ない」
「そっか……ねぇ、あたし、どうすればいい? どうすれば優奈ちゃんを取り返せるの?」
俺はぎしと拳を握った。
「……この状況で無理に奪い返そうとしても、たぶん返り討ちに遭う。とにかく一刻も早
く体勢を立て直さないといけない」
「うん、それで……?」
答えはあまりにも苦い、そして正しい状況判断だった。
「戦略撤退だ。次は必ず取り返す……我慢してくれるか?」
「……」
相沢の全域知覚。
俺には崩せないだろう。アユミにも。雛子にも。
だが先生なら、崩しうるかも知れない。
そして俺にも捨て札がひとつだけある。しかし、俺の捨て札ごときに雛子とアユミの命
を賭けることは出来ない。
賭けられるとすればただひとつ。
逃亡に失敗した時の、俺の命ひとつで充分だ。
「勝つために、いまは逃げないといけないんだ……ね」
雛子の顔に迷いが生じる。
目の前で、友達が連れて行かれるのを見過ごせ。
そんな苦渋の選択だった。
「……わかった。それでいいよ」
利口だ。
本当に、利口な娘だ。
そこに違和感があった。
こんな風に、どんな苦い命令でも簡単に受け入れ、自分を殺し周囲に合わせようとする
ことは果たして健全なのだろうかと。
「そうか……そういうことか」
「え?」
利口すぎる精神。
彼女の心を垣間見た気がする。
これが、雛子に残された負の連鎖の爪痕か。
「……なんでもない…………相沢!」
「うん、何だい?」
つい、とこちらを向いた微笑に拳を向ける。
特攻1秒前。
最後の体重移動を完了した俺を見て、予知能力者は静かに語った。
「言っておくけど、それが最後だよ」
「!」
予知能力者はまぶたを閉じ、現実の未来を語り聞かせる。
「それが最後のチャンスだ羽村君。
君がそれを成功させ、ここで僕を打倒する確率は7%。失敗する確率は12%。何らか
の要因で中断される可能性が6%──そして、成功しても僕が躱しきる可能性は75%」
嘘やブラフは期待しない。
相沢がそう言うのならそうなんだろう。この勝負は俺の敗北だ。
「君に止められるのかな、負の連鎖。僕のネバーランド。僕たちの夢を、いまここで」
迷いを振り切る。
75%の敗北確定。
だが、もとより自爆は前提要素だ。大事なのはその後に俺が動けるかどうか。自爆し終
えたあとも、最後まで残る俺が単独で体を動かし、この場から離脱できるかどうかだけ。
大丈夫だ。
失敗した所で失うのは俺1人。
雛子は逃がす。
あとは必ず、絶対にアユミが動いてくれると信じて。
「──撤退だアユミっ! 動け!!」
そして俺は地面を蹴り、追い縋る腕たちを振り払って飛び込み前転で短刀を拾い上げた。
「雛子!」
「!」
雛子の足元に投げ渡す。
「それ持って逃げろ! 早く!」
「で、でも──っ」
「させないよ……!」
相沢が即座に、雛子に向かって駆け出そうとする。
だが、それでこちらの駒が解放されることになる。
赤い少女が即座に跳ね起き、壁に突き立っていたもう1本のナイフを引き抜いた。
「やれ、アユミ!」
「うん!」
振り回される双剣。
甲高い音が店のシャッターに突き刺さり、力ずくで引き剥がす。
それを見て天女の少女が怯え、腕たちが少女を誘導して避難させた。
「相沢、ユウヤ──!」
「!」
相沢が振り返り、読んでいたと言わんばかりに笑みを浮かべ、即座に雛子を転ばせた。
豪風。
鉄製のシャッターが西通りを滑空し、予知能力者に襲いかかる!
「無駄だよ」
だが、紙一重で躱された。
続く背後からの刺突。振り上げた雛子の短刀も回避し、軸足を払ってまた転ばせる。
「うあ……っ!」
「あと頼んだぞ──」
アユミに視線を送って、俺は地面を強く強く蹴った。
空中。
風の中で、落下地点から見上げてくる、渦巻く瞳を睨み付ける。
「ネバーランドはここで終いだ」
「無理だね、君には止められないよ。君はここで死ぬ」
「フン…………“六道沙門”」
「え、羽村くん!?」
相沢がアイスピックを構え、全域知覚の呪いを発動。大気を波紋が駆け抜けた。
浸蝕された予知能力者の庭園に、俺は真正面から飛び込んだ。
「!」
1打。
腕が衝突。重力を乗せた、硬い衝撃が大気を揺らす。
そこから地面に突き刺すように軸足を落とし、身体を反転。2打目は鞭のような回し蹴
り上げだった。衝撃。また防がれている。1秒の間も置かなかったのに。
「やめて羽村くん! だめだよっ!」
アユミが考案した六道沙門。
ああそうだな、この前だって骨にひびが入った。
だが旋回するような連撃はもう始まっている。
3打。4打。5打。
連動した左裏拳、右フック、当て身。
流れるような衝撃の連なりが、1撃ごとに加速していく。自由落下する鉄球のように。
一分の無駄もない連鎖構造で重量を増していく。
視線の交差に舞う砂が低速に見えた。
音速の世界の中で、迷いを振り切ってアユミが走り出す。
妨害に入る腕は床を叩いて下がらせる。呆然としていた雛子を捕まえ、逃亡を言い聞か
せる。
「ぐ──ぅ!」
連撃を受け止め続ける相沢が苦鳴を吐いた。
渦巻く瞳に浮かぶ焦燥。
例え先読みを出来たところで体は人間、相沢ユウヤの対処速度には限界がある。俺の捨
て札は、それを乗り越えられるか否かの賭けだったのだ。しかし。
(チ……!)
5撃目でとうとうバランスが崩れた。
音速の打撃がもたらす負荷は重すぎる。模倣自体もまだ未完成だった。軸足が悲鳴を上
げ、体中が軋み、筋肉が千切れたような激痛に襲われる。
何より1度手放したバランスは2度と取り戻せない。視界が傾き始めていた。
──墜ちる。
「づあああああッ!!」
だからラスト6撃目は捨て身になった。
大きく滑走した右回し蹴りに、これまでの加速をすべて
上乗せ
し、最大威力
で相沢の側 頭部を薙ぎ飛ばす──!
「無駄だ──無駄な足掻きなんだよっ!」
「!」
衝撃が全身に響いた。
ダメだ、防がれた。
両腕を盾にされている。越えられない。俺では相沢の対処速度を超えられなかった。
俺は捨て身だった。
宙に浮いていた身体が墜ちていく。
その中で、振り上げられるアイスピックが緩慢に見えた。
──終わりだ。
「させないよ!」
「ぐ……ぁ!?」
相沢が即座に飛び退く。
直後、不可視の衝撃が宙を穿っていた。相沢の頭部があった場所を。距離を無効化する
衝撃破、雛子の呪いだった。
俺は地面に墜落。その瞬間に腕が差し伸べられた。
「つかまって!」
「……ぐっ!」
アユミの腕にしがみつく。
少女は手近にあった瓦礫を拾い上げ、天井に向かって投擲。破壊。雛子が侵入する時に
使った穴を広げる。
雛子がこちらに駆け寄り、アユミが抱き寄せる。
飛翔しようとした怪力少女の脚に、突然何かが音を立てて生えた。
「うっ!?」
「アユミ!」
「お姉さん……!」
「ダメだね、逃がさないよ」
相沢の投げたアイスピックだった。アユミの跳躍のタイミングまで事前に読み切られた
のか……!
周囲を見回す。
とうとう視認できた。
モヤだ。
蜘蛛の糸のような粘着質なモヤが、西通りのあちこちに絡み付いている。
「う……」
触れるだけで何かを吸われていく。
情報を。
演算の材料たる要素のひとつひとつを。
未来の選択肢を。
「チ──くそがっ!」
素手で振り払う。腕力で呪いが払えるわけもないが。
「雛子!」
「うん!」
再度、雛子の衝撃破が相沢を後退させる。
そしてアユミが痛みを圧して跳躍し、浮遊感。俺たちは穴を抜け、商店街の天蓋に着地
するのだった。
「ぐ……ぅっ!」
久しく空を見た。
そこで、衝撃が俺の身体を蝕んだ。
反動。
人体の限界を弁えずに六道沙門を使ってしまった代償が肉を、骨を蹂躙する。
「……がんばって。しっかり立って」
雛子が俺の目の前に立ち、腕を引く。
「走れる? 走れるよね。お兄さんは、強い子だもんね」
アユミは息を切らしながらも、既に立ち上がっていた。
なら、負けるわけにはいかない。
「当たり前だ。男だからな」
転びそうになりながら、よろよろと立ち上がる。
走り出そうとした瞬間。
「!」
腕が、天蓋に生えた。
数は3。
それを見つめ、雛子は短刀を構えた。
「…………邪魔しないで、お願い。傷付けたくないよ」
『──────』
腕は何も語らない。
ただ、雛子の真剣な双眸と刃を恐れたのか、横を通り抜けても手を出しては来なかった。
+
こうして逃亡劇は終わった。
沈黙の西通り。
穴の空いた薄闇の中で、相沢ユウヤは呆然と両手を見下ろしていた。
「……どうしたの?」
天女の少女が声を掛ける。
相沢は答えずに、先の出来事を思い返していた。
「…………」
あの時、少年が腕を振るった。
その瞬間、確かに、未来視の脳内映像がブツリと断線したのだ。
「……呪いを無効化された……? ほんの一部、ごく一瞬だったけど……」
断線はとっくに回復している。
ほんの微細な、違和感程度。
「……まさかね。有り得ない」
自分の集中力が切れただけだろう。
そう納得して、相沢は天女の少女、優奈を振り返った。
少女の瞳にあるのは空白。
「雛子ちゃんを……殺したんだね」
「……ああ。確かに、あの子は僕が殺した」
「どうして……? あなたは、子供を助けたいって言ったのに。だからついてきたのに」
ガラス色の瞳が詰問する。相沢は目を伏せた。
「すまない、君があの子の知り合いだとは気付かなかった」
相沢は穴の空いた天蓋を見上げて呟く。
「あの子を最後にしようと思ったのに。昨日、兄を殺したよ。今日は両親を。そして君も
殺そうとした」
「…………」
「目的がね、分からなくなるんだ。たびたび自分を見失う。気が付けば殺している。そう
すれば僅かな時間だけ、乾きが癒される」
「……もうやめて。2度としないで。目的以外で人を殺さないって、約束して」
「…………」
優奈の手が、相沢の服を掴んだ。
切実な双眸が殺人鬼を見上げる。
「きっと……きっとダメになるよ。あなた1人で終わってしまう。そんなの耐えられない。
一緒に、一緒に夢を叶えよう?」
「…………」
「子供だけの世界。きっと素敵な場所だと思う。私たちの夢、叶えてくれるんでしょ?」
「……ああ」
「だったら約束して。もう殺さないで。もうこれ以上……」
少女の手は、相沢を掴んで放さなかった。
相沢の胸に久しく忘れていた何かが混じる。
それは何だったろう。
言葉にする意味はない。きっとまたすぐに忘れてしまうものだろう。ただ、その契約に
は意味があると思った。
「わかった。約束する」
残せるものが、あると思った。
幸福そうに笑んだ少女に誓う。
相沢ユウヤは、今度こそ、2度と自分の嗜好のために殺人をしないと。
「………さて、来たよ。行こうか」
「え?」
相沢が西通りの出口を見やった。
反響する足音。人影。
貴族のように一礼して、その人物は姿を晒した。
「……お久しぶりです。私が強化してあげた予知能力は、上手に使えていますか?」
「ああ、有効活用させてもらってる」
優奈は相沢の背中に身を隠し、小声で言った。
「……誰?」
「協力者さ。力を貸してくれてるんだ」
相沢は転がっていたアイスピックを拾い上げた。
曲がっている。
もう使い物にならないだろう。
「君の言った通り、子供の亡霊を50人集めた。これで本当に実現できるんだね? 僕ら
のネバーランドは」
「……えいっ」
『協力者』が指を振るう。
直後。
相沢の手にあったアイスピックに呪いが集う。蛇のように渦巻く。
数秒後、それは新品のように再生されていた。
相沢は笑んだ。
一体どのような呪いがあれば、自分の予知能力を強化し、アイスピックを再生し、子供
だけの街を創造し得るというのか……まるで想像が及ばなくて、呆れるしかなかった。
『協力者』はいつの間にか相沢の真横に立っていた。
驚く優奈の頭を撫でながら、耳元にくすくすと囁きかける。
「簡単ですよ。だって、私は魔法使いですから」
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