暇潰しの夜

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#「誇り高き男たち」
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 夕暮れの校庭は、戦場だった。
「…………」
 既に爆音の乱打は終わっている。
 傾いた陽射しの色は真紅。破壊の爪痕が残る運動場の、真ん中で。
「……チ」
 ぜい、ぜいと息を切らす少年がいた。
 名を朝野トウヤという。
 荒野じみた渇いた風に吹かれながら、ただ一心に目の前の敵を睨みつけている。
「ったく、しぶとい男やなぁ黒川。そろそろ飽きたでその顔見るの」
「……意味がわからねぇよ、死ねよ」
 やれやれと肩を竦める朝野のライバル。
 もう1人の少年。
 天才児、黒川ヤマトがそこにいた。
「しっかし、なんでやろなぁ。お前と顔合わすたびに俺は生傷だらけになってるような気
がするわ。不思議や」
「いやいや。顔合わせるたびに喧嘩売って来るの、お前だからネ?」
「そうか……でも、野蛮はいかんなぁ……ああ、いかん」
「確かに。ここはクールにカタを付けるべきだ」
 フッと笑って、2人がそれを取り出した。
 腕に連結。起動。展開。
「ほないくで〜……」
「応、来い」
 そして同時に叫び合い、今週の最終決戦が開幕するのだった。

「「 デュエル──ッ!! 」」




誇り高き男たち
(※注釈:ブラウザバック推奨。以下延々と決闘します※)





 決闘開始。
 手札ドロー。お互いが5枚のカードを補充し、共にニヤリと笑い合う。
「ああ、悪い黒川。勝った。間違いなく勝ったわ俺」
「おもしろい。何を引いたのかは知らないが、好きにやってみな」
 ライフポイントは両者8000からスタート。
 朝野がディスクの山札に指を掛け、激闘の第1ターンを動かし始めた。
「おーけ……俺の先攻! ドロー!」
 これで朝野の手札は6枚に。いっそう不敵な笑みを深め、朝野は叫んだ。
「リバースカードを2枚セット! モンスターを裏守備で出し、ターンエンドや」
「ふーん……」
 品定めするように、朝野の場に伏せられた3枚を注視する黒川ヤマト。
 意味深に頷いて、彼は宣言した。
「……OK、俺のターン。ドロー、リバースカード3枚セット。『霊滅術師カイクウ』を
攻撃表示で召喚。そこの裏守備モンスターに攻撃だ」
 『霊滅術師カイクウ』の攻撃力は1800。
 そして攻撃を受け、捲られたモンスターの守備力はたった600。圧勝だった。カイク
ウの攻撃を受け、立体映像の魔法使いがバラバラに砕け散る。断末魔の絶叫と共に。だが。
「……チ。厄介な」
「はん、掛かったなアホがッ!」
 舌打ちしたのは、攻撃したヤマトの方だった。
 カイクウの足元に影が渦巻く。
 そこから伸びた黄土色の腕が、カイクウを地の下へと引きずり込んでいった。
 空になったフィールドを満足げに眺め、朝野がさっき倒された魔法使いのカードを掲げ
て見せた。
「『執念深き老魔術師』、リバース効果の単発破壊モンスターや。残念やったな黒川」
「ふん……ターンエンドだ」
「ククク! 俺のターン、ドロー……」
 ターン開始。朝野はデッキからカードを引きながら、ちらりとヤマトのフィールドを見
下ろした。
 リバースカード3枚、おまけに天才児の挑戦的な笑み付き。
 間違いなくトラップが混じっている。普通に攻撃を掛ければ返り討ちに遭うだろう。
「……魔法カード、天使の施しを発動や。デッキから3枚引いて、手札から2枚捨てる」
 捨てたカードは『黒き森のウィッチ』と『万能地雷グレイモア』だった。
「さ、攻撃して来いよ朝野。やったなお前、いまなら直接攻撃し放題だぜ?」
 直接攻撃。
 敵の8000のライフポイントを0にすることが勝利条件であるこのゲームに於いて、
それは大きな一手となる。
 無論、3枚のトラップを乗り越えることが出来れば、だが。
「……ええやろ、乗ったるで黒川。モンスター召喚! お前に直接攻撃攻撃やッ!!」
「!」
 一体の騎馬兵が召喚される。
 馬が勇猛な声を上げ、直線的な突進を開始する。
「つ──成る程、そういうことかよ朝野」
 すぐさまトラップを発動しようとして、ヤマトの手がピタと止まった。
「お〜う、そういうこっちゃ〜。大人しく喰らっとけ」
 振り上げられた日本刀を見上げながら、黒川ヤマトは冷静に敵モンスターを分析した。
 ……『天下人・紫炎』レベル4、攻撃力1500。
 それ自体は大した脅威を持つモンスターではない。だが厄介なのは、そのカードに付加
されている特殊効果だった。

 【炎族・効果】このカードはトラップの効果を受けない。

 簡潔な文章こそ、怖ろしい力を持つ。
 それは古くからあるデッキ作りの不文律だった。紫炎の日本刀が、ヤマトに斬り掛かる
──!
「……甘い」
「何ッ!?」
 だが、日本刀は突然巻き起こった爆煙に阻まれてしまった。
 渦巻く暴風が校庭を蹂躙する。
「つ……まさか黒川、お前──!」
 煙が晴れた時、ヤマトの手には、役目を終えた『クリボー』のカードがあった。
 ──手札からこのカードを捨てる。相手からプレイヤーへのダメージを1度だけ0にで
きる。この効果はバトルフェイズにしか使えない。
 それはアンチトラップ対策、緊急防御の王道カードだった。
「…………惜しかったな朝野」
「くっ! リバース2枚追加、これで計4枚! ターンエンドや!」
「俺のターン、ドロー……」
 ヤマトの手札が2枚になる。
 双方のカードを淡々と見比べ、ヤマトはこのターンの1手を決断した。
「『魂を喰らう者バズー』を攻撃表示で召喚……」
「……!」
 攻撃力1600のモンスター。
 ニヤリ、と朝野は胸中だけで笑みを浮かべ、
「ターンエンド」
 その宣言に舌打ちした。
「…………」
 攻撃力で勝るモンスターを召喚し、しかし攻撃は行わない。
 それはトラップを警戒してのことだろう。確かに、朝野はバズーがいる限り紫炎では攻
撃できない。それに何よりも、朝野の4枚のリバースカードの中には。
(ふん……ミラーフォースが避けられたか。まぁええわ。たかが猿1匹には勿体ないくら
いや)
 最高ランクのトラップカードが眠っていたのだ。
「俺のターン、ドロー……」
 そして、リバースカードのうち1枚に手を掛けた。
「サイクロン発動! お前の場に伏せられた、真ん中のカードを破壊する!」
「つ……!」
 ポーカーフェイスの黒川も、さすがに狼狽えざるを得なかった。
 サイクロンによって破壊されたカードは『落とし穴』。朝野の追撃を遮断するための罠
だったのだ。
 リバースカードが残り2枚になったヤマトに、朝野の猛攻が襲いかかる!
「更に、手札から『地割れ』発動! お前の唯一のモンスター『魂を喰らう者バズー』を
破壊! ハッ、これでまた空っぽになったなぁ黒川!!」
「…………」
 バズーが地割れに飲み込まれて消えた。
「まだまだァ! リバースカードオープン、『アポピスの化身』!」
「……へぇ」
 『アポピスの化身』は、発動した瞬間にモンスターカードとなって場に特殊召喚される
という、一風変わったトラップカードだ。
「覚悟はえぇな黒川……」
 朝野は不敵に笑い、腕を振り上げた。
 紫炎とアポピス。攻撃力は合わせて3100。大ダメージが、ヤマト目掛けて振り下ろ
される!
「紫炎、アポピス、今度こそ黒川に直接攻撃や!」
「トラップカード発動」
「何ッ!?」
 襲いかかったアポピスの前に大きな筒が出現する。
 あっという間に飲み込まれた魔人が現れたのは。
「ちょま、待てや! 違う! 違うっちゅうねん!」
 ダイレクトアタック成功。
「ぐぼあッ!」
「く……っ!」
 朝野に1600のダメージ。と同時に、紫炎がヤマトに1500のダメージを与えた。
「くっそ黒川のボケが……いまどき『マジックシリンダー』とかありえん」
 罠カード、『マジックシリンダー』。
 悪名高き“攻撃返し”の罠である。このカードに捕らわれたモンスターは攻撃を無効に
され、なおかつ攻撃力分のダメージをプレイヤーに打ち返されることとなる。
「痛み分け、ってとこだな」
「チ……ターンエンドや」
 朝野LP6400、黒川LP6500。
「俺のターン、ドロー……ターンエンド」
「フン、引きが悪かったか。ご愁傷さまやね〜俺のターンドロー……」
 ふと、朝野の手が止まった。
 数秒ほど考え込んでから決定を下す。
「……リバース1枚セット。
 場のモンスター2体を生け贄に、レベル7のモンスターを召喚や!」
「!」
 レベル7。
 それは、高位モンスターであることを意味する。
「来い──!」
 夕暮れの校庭に、巨大な魔法陣が描かれる。
 激震する大地。
 バチバチと音を立てる大気。
 脈動する魔法陣の輪郭。蛇のように踊る呪詛。水面のごとく揺れる中心部から、魔力の
鎖に引き上げられ現れたそれは──
「ブラックマジシャン!!」
 ──漆黒を纏う魔道士だった。
 攻撃力2500、守備力2100。いまさら解説するまでもない、有名すぎる上級モン
スターカードだった。
「…………不味い、か」
 黒川の頬を、一筋の冷や汗が滑り落ちた。
「ブラックマジシャンの直接攻撃! いっけぇぇぇええええええ!!」
 翳されたロッドの先に魔力が凝縮されていく。
 破滅を呼ぶ黒魔導の現界。空気が焦げていく。
 強すぎる暴風と共に、魔道士の必殺魔術が、黒川に炸裂する──!
「……あり? なんぞこれ」
 おかしい。
 風が強い。強すぎる。ブラックマジシャンが攻撃を躊躇うくらいに、それはもう唐突に
台風が訪れたような竜巻の渦中に気が付けばいた。
 空気の壁の向こう側で、竜巻を従えた黒川の指が1枚の赤いカードを掴んでいた。
「……トラップカード、『イタクァの暴風』」
「げぇええッ!? おま、なんつうマイナーなカードを!!」
 『イタクァの暴風』。
 裏側表示以外の、相手フィールド上モンスターの表示形式をすべて入れ替える。
 これにより、朝野のブラックマジシャンは強制的に守備表示にされていた。
「ぐ……くそっ、ターンエンドや!」
「俺のターン、ドロー……」
 ここでヤマトの手が止まる。
「…………」
 先のイタクァの暴風を最後に、ヤマトのフィールドは空になっていた。手札は3枚。相
手の裏を掻き続けているとはいえ、到底楽観できる状況ではなかったのだ。
「……モンスター1体を裏守備で召喚、ターンエンドだ」
「俺のターン、ドロー! 『洞窟に潜む竜』を攻撃表示で召喚、ブラックマジシャンも攻
撃表示! まずはブラマジでその裏守備に攻撃やッ!」
「……ふん」
 黒魔導によって、ヤマトの『カイザーシーホース』が粉砕される。
「ははっ、『洞窟に潜む竜』でお前に直接攻撃やッ!」
「……っ」
 巨大な竜の、岩のような右手がヤマトを打ち据える。1300のダメージ。残り520
0。
「ターンエンド、や」
「俺のターン、ドロー……」
 カードを引いた瞬間、ヤマトの脳に閃光が走った。
「……悪いな朝野」
「何?」
 不敵に笑って、その魔法を行使した。
「落ちろ…………『サンダーボルト』!」
「なんッ!?」
 朝野の顔に恐怖が浮かぶ。
 しかし、声は轟音に掻き消された。校庭が閃光に包まれ、爆煙を撒き散らす。天から落
とされる神の怒りだった。
 踊る雷。地表を蹂躙し尽くす破壊の権化。
「ぐああああ! くそがッ!」
 煙が晴れた時、朝野のフィールドにモンスターは1体も生き残っていなかった。
 ブラックマジシャンも、洞窟に潜む竜も消え失せている。
 ──『サンダーボルト』。
 無コストで敵モンスターをすべて破壊するという、過去現在未来問わず、掛け値なしに
最凶の名を冠す怖ろしい魔法カードだった。
「OK、俺はこのままターンエンドだ」
「俺のターン……! ドロー……!」
 憤怒の瞳で朝野がカードを引く。
 しかし目に浮かぶのは落胆一色。さきのサンダーボルトで、朝野の攻撃の手は失われて
いたのだ。
「リバースカードオープン、トラップカード『メタル・リフレクト・スライム』! この
カードの効果で場に守備力3000のメタル・リフレクト・スライム1体を守備表示で召
喚、ターンエンドや!」
「俺のターン、ドロー。メタル・リフレクト・スライムか。鉄板の防御だな……」
 ふむ、と考え込み、ヤマトは1枚の手札を選択した。
「……魔法カード、『強欲な壺』発動。デッキからカードを2枚ドローする」
「ふん……」
「モンスター1体を裏守備で召喚、これで計2体の壁。リバースカードはなし、ターンエ
ンドだ」
「俺のターン、ドロー。『味方殺しの女騎士』召喚や」
「!」
 『味方殺しの女騎士』、レベル4にして攻撃力2000。初代破格モンスターの筆頭だ
った。
「そこの裏守備モンスターに攻撃! 砕け散れッ!」
「ぐ……っ」
 ヤマトのサファイアドラゴンが、爆裂するように粉砕される。
「リバースカードを1枚セット。ターン、エンド」
「俺のターン、ドロー……ほう」
 ヤマトの口の端に浮かぶ希望の笑み。
 勝利への1手が見えたらしい。
「……『死者蘇生』。クリボーを守備表示で召喚し……モンスター2体を生け贄に」
「──!」
 高レベルモンスターの召喚。
 天が、雲が光を放ち始めた。あまりにも神聖すぎる、真っ白な光を。
「……ぁ」
 視界を染め上げられ、朝野が呆然と空を見上げる。
 光の中から浮かび上がる像がある。
 入道雲のような。
 巨大な翼を有した竜は彗星のように落下し、一瞬後にはフィールド上に顕現していた。
 蠢く巨体。吠える口まで真っ白い。その中で、唯一彩やかな青の瞳が、映るすべてを圧
倒する。
「……ブルーアイズホワイトドラゴン」
 攻撃力3000、守備力2500。
 それはかつての黄金時代、敵無しの覇道を突き進み続け、いまなお3000の攻撃力で
多くのデュエリストを勝利に導くモンスターだった。
 ブラックマジシャンと共に、このゲームを象徴する存在と言っても過言ではない。
「攻撃」
「ぐ……くそッ!」
 宣言と共に、滅びの名を冠す風が、ブルーアイズの口腔に膨れ上がる。
 目映すぎる閃光。
 恐怖を押し付ける暴風を前に、朝野は奥の手を惜しげもなく繰り出した。
「トラップカード発動、『聖なるバリア・ミラーフォース』!!」
「!?」
 滅びの魔風が解き放たれ、膨れ上がった破壊の渦と共に朝野に殺到する。
 地面を削る光の疾走。
 だが、炸裂の寸前で不可視の壁が立ちはだかり、激突。激震が校庭を、曉の空を揺るが
した。
「く……!」
「がぁぁああああ……っ!」
 デュエリスト2人が弾き飛ばされそうになるほどの威力。
 3000の攻撃力と、最高クラスのバリアが拮抗する。
 しかし、バリアに付加された『ミラー』、攻撃返しの特性はいかなブルーアイズと言え
ども乗り越えることは出来ない。
「!!」
 滅びのバーストストリームが鏡面で乱反射し、10の光弾と化してブルーアイズ自身に
襲いかかるッ!
「くはははっ、残念やったな黒川ァ!!」
 朝野の狂笑がヤマトを嘲る。しかしヤマトは、決戦を挑む戦士の瞳で叫んだ。
「速攻魔法発動!」
「なんやと!?」
 10の光弾がブルーアイズを破壊する寸前。
 突如、盾になるように現れた1冊の魔導書があった。展開。魔力の壁がブルーアイズを
包み込み、完全に消失させる!
 空振りした光弾たちは校舎に殺到し、倒壊させかねないほどの激震を響かせた。
「チ──外したか!」
「は、そんな簡単には殺らせねぇよ」
 速攻魔法、『月の書』。
 モンスター1体を裏守備表示に変更する、一見何の変哲もない魔法カードだ。
 だが、この『咄嗟に裏側守備表示に変更できる』という特性は、局所的にとてつもない
威力を発揮する。現にいま、ブルーアイズはこの『月の書』によってミラーフォースの破
壊対象から逃れたのだ。
「ターン、エンドだ」
 ヤマトのLPは残り5200、朝野の残りは6400。
「俺のターン、ドロー……スタンバイフェイズ」
 ぐ、と朝野の顔に苦いものが浮かぶ。
「……俺のフィールドにいる攻撃力2000、『味方殺しの女騎士』は毎ターン維持する
ためには1体の生け贄がいる。ここで破棄や」
 女騎士が消滅。そして朝野は1枚の魔法カードを発動した。
「『ブラック・ホール』」
「……!」
 フィールド上空に出現した巨大な重力場が、朝野のメタル・リフレクト・スライムもろ
とも、裏守備だったブルーアイズを飲み込んでいく。
 魔法カード『ブラック・ホール』。
 敵味方問わずフィールド上のモンスターを破壊し尽くすという、名前の通りに貪欲な
カードだった。
「モンスターを1体裏守備で召喚し、ターンエンドや」
「俺のターン、ドロー。光の護封剣発動」
 光の剣が大量に降り注ぎ、朝野のフィールドをロックする。
「チ……! また厄介なもんを……!」
 魔法カード『光の護封剣』。
 3ターンの間、相手の攻撃を封じ続ける防御魔法だ。
「ターンエンド」
「俺のターン、ドロー……ターンエンドや」
「俺のターン、ドロー。リバースカード1枚セット、ターンエンド」
「俺のターン、ドロー……」
 ──ところでいま朝野の攻撃を封じている『光の護封剣』というカードは、少し特殊な
カードだ。
 曰く、それは必ず起死回生の場面に現れるラッキーカードであり。
「リバース2枚セット、ターンエンドや」
 本来なら得られなかった時間を得るためのボーナスチャンスであり。
「俺のターン、ドロー……ターンエンド」
 膠着する3ターンの間は常に、視線同士の冷戦が交わされ。
「俺のターンや。ドロー。リバース1枚セット。ターンエンド」
 効果が切れた3ターン後。冷戦状態で押し込められていたフィールドが爆発する時。
「さて、俺のターンだな。ドロー…………」

 それは、貯蓄した火薬庫に火を付ける、総力戦を意味する。

「…………」
 ふと、ヤマトが目を伏せた。
「……?」
 朝野には、その沈黙の意味が計りかねた。
「……さて、これにて護封剣は終了なわけだが」
 朝野のフィールドをロックしていた剣が霧散し、自由が戻る。
 朝野のフィールドには守備表示のカイクウが1体、リバースカードが4枚。
 対してヤマトのフィールド上にあるのはリバースカードが1枚だけ。
 ヤマトは3枚の手札のうち1枚に手を掛け、宣言した。
「…………手札から魔法カードを発動。『ハーピィの羽根箒』」
「つ──!」
 朝野のフィールドにあった、4枚のカードが一斉に除去される。
 無論、その中のほとんどがトラップカードだった。
「……手札から魔法カードを発動。『ハンマーシュート』」
 空から降り注いだ巨大な何かが、隕石の速度で地表に衝突。直撃を受けた朝野のカイク
ウが跡形もなく砕け散る。
 落ちてきたのは、木槌だった。
 これで、朝野のフィールドは空になる。
「……ヤケに引きがええやんけ黒川。どういうこっちゃ」
「…………さぁ。運がいいんじゃねぇかな」
「…………」
 影に覆われたヤマトの笑みを見返し、朝野は悟ってしまった。
 狙われた。
 この1ターンのためだけに、恐らくキーカードのうち何枚かは第1ターンからいままで
を掛けて貯蓄され、温存されていたのだろう。
 恐らくヤマトは既に勝利の手を組み終えている。
 朝野はヤマトのライフを0にすることを目的とし、ヤマトはこの1ターンを招くことだ
けを始めから目的としていたのだ。
 それはまるで、パズルを組み立てるように。
 1ピースの余分もありはしない。
 ヤマトの手札は残り1枚。リバースカードが1枚。きっと、すべてを最大限に使い切る
のだろう。
「……見せてみろや、お前の勝ちの手」
「応。リバースカードオープン、『リビングデッドの呼び声』」
「!」
 墓の下から、這い出してくる者がいる。
 不気味な容姿。不気味な歯車の音。不気味な大砲を背負った、大男。
 『リビングデッドの呼び声』という蘇生カードに相応しい、邪悪な空気を纏ったモンス
ターだった。
「なるほどねぇ。そう来たか」
「……このモンスターの効果を発動」
 のっそりと活動を始める死者。
 がしゃり。
 大男の大砲が、朝野ではなくヤマトに向けられる。主人への裏切り。ロケットランチ
ャーの引き金が引かれ、炸薬弾頭がヤマトに直撃する。
 爆煙と轟音。
 傷だらけになったヤマト。何を隠そう、いまの1撃で敗北1歩手前まで追い込まれてい
た。
「…………来い」
 大男の、機械の体が割れる。
 腹が扉のように左右に開き、その奧に隠されていた異次元への扉が晒される。
 どす黒い魔の渦。
 そこから、大気を引き裂くように巨大な腕が現れた。
「……ふん」
 朝野が鼻を鳴らす。
 大男の体が引き千切られそうになっている。
 魔の渦をくぐり、正規ではない手段を用いて現れる、巨大すぎる魔獣。
 腕の次は首。首の次に別の首。そのあとにまた、別の首が現れた。
 三つ首の巨大竜。
 吠え猛り、朝野を威嚇する。その大音声だけで大気が割れ、朝野は吹き飛ばされそうに
なる。
 目映い閃光を放って。
 それが、魔の渦の縛鎖から解き放たれた。

「ッ!!」

 轟音。
 先のサンダーボルトにも及ぶ爆煙と雷鳴が、地表を揺るがした。
 煙の向こうのシルエット。
 現界した魔獣の名を、ヤマトが呼び上げた。
「ブルーアイズ・アルティメットドラゴン」
 一斉に吠え猛る青い目の三ツ首。
 その声に、特殊召喚した大男本人……効果モンスター、『デビルフランケン』ですら後
ずさっていた。
 『デビルフランケン』。
 ゲーム開始時点で8000しかないライフポイントのうち、5000もの莫大なポイン
トと引き替えに、融合モンスターを正規ルートではなく場に『特殊召喚』するという効果
モンスター。
 そして、『ブルーアイズアルティメットドラゴン』。
 本来ならブルーアイズホワイトドラゴン3体に『融合』という魔法カードを揃えなけれ
ば召喚できない、怖ろしく召喚成功率の低いモンスター。
 レベル、前代未聞の「12」。通常モンスターの平均は「4」、最高クラスでも「8」
がほぼ限度である。
 そして攻撃力は、本来ならブルーアイズホワイトドラゴンの1.5倍、4500であっ
たはずなのだが。
「……おい黒川、お前まさか……」
「……おう。やってやったぜ」
 圧倒され、もはや諦めの境地に達していた朝野が、ヤマトのオープンした最後の手札を
直視した。
 ──『巨大化』。
 条件付きで、1体のモンスターの攻撃力を2倍にするカードである。
 これにて、ブルーアイズアルティメットドラゴンの攻撃力は「9000」という、モン
スターどころか1撃で全快状態のプレイヤーを虐殺できる境地に達した。
「は……はは、ははははは……」
 3ツ首が、それぞれに滅びの風を紡ぎ合う。
 融合していく特大魔風の威力は9000。大破壊すぎる。そんなものの直撃を受けるは
めになった朝野としてはもう、笑うしかなかった。
「ぎゃはははははははははははははははははははははははははは!!!」
 朝野爆笑、究極竜絶叫。
 腹を抱え、指差して涙まで流しながら大笑いする関西人を、王者の風格で睥睨し。

「─────アルティメット・バースト」

 巨大究極竜の1撃が、砕け散った地面ごと、朝野を空の彼方へ吹き飛ばすのだった。ち
ゅどーん



 黒川ヤマト LP 200
 朝野トウヤ LP   0

 黒川ヤマト WIN!!!!



 僕の名前は九条シンジ、平凡な高校生です。
 それはある日の夕暮れ校舎で友人のH崎が電波っていた時のこと。
「しかし! ただの果物では売れないんですッ!!」
 めきどかずばごきがしゅこーん
 いきなり校舎全体が激震して、僕は危うくつんのめってしまう所でした。
 驚いて校庭を見てみると、問題児2人がさっきのキャタピラ音はどこへやら、いつの間
にかカードゲーム対戦に切り替えているのでありました。あ、デュエルディスク。
「えー」
「そこでララバイヒトデ市の人々は頭を捻らせ考えました……何か新しいアイデアを。斬
新な果物を開発して旅行客に馬鹿売れウハハしなければ……このままでは、我が社は経営
破綻して! 社員の人数分の首吊りネクタイを用意するはめにっ!?」
 アルティメットバースト! おぉ、ヤマトっちここに来て3体融合出しやがったよ。す
げー。
「……あ、ところでメリー島の話じゃなかったの?」
「故に! たび重なる遺伝子配合をたび重ね! そうして生み出された画期的かつ斬新す
ぎて新しい、山形県民もびっくりの大躍進それこそが──!」
「おーい」
「おっぱいプリンなのですッ!」
 かつーん。
 なんか「><」こんな顔でH崎さん拳振り上げてますけど、最初リンゴじゃなかったっ
けそれ。
「あ……おっぱい林檎なのですッ!」
 ジャキィィィイイイイイイイン
 決まった。言い直しやがった。ぴぴぴっ、電波受信──。



/誇り高き男たち



(※!!CAUTION!! ※本項に登場するカードゲーム「デュエルモンスターズ」の著作権はKONAMIに帰属します。当HPは公式とは何の関係もございません※)

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